Dr. bycomet
2021年の観察研究によると、80歳以上の高齢者において、スタチンの中止は1年間の全死亡率に有意な増加を示しませんでした。
80歳以上の入院患者369名(平均年齢87.8歳)
スタチン中止群: 140名
スタチン未使用群(対照群): 229名
入院時にスタチンを中止した患者(スタチン中止群)
もともとスタチンを使用していなかった患者(スタチン未使用群)
1年間の全死亡率
後ろ向き観察研究(単施設、1年間の追跡調査)
1年間の死亡者数: 110名(29.8%)
スタチン中止群: 38名(27.1%)
スタチン未使用群: 72名(31.4%)
Cox回帰分析(交絡因子調整前後ともに有意差なし)
ハザード比(HR)= 0.976、95%CI 0.651–1.463(調整なし)
HR=1.067、95%CI 0.674–1.689(傾向スコアマッチング後)
IHD患者に限定した解析(n=108)
1年間の死亡率
スタチン中止群: 27.7%
スタチン未使用群: 46.5%
Cox回帰分析: HR=0.524、95%CI 0.259–1.060(統計的に有意ではないが死亡率低下の傾向)
Ioffe M, Kremer A, Nachimov I, Swartzon M, Justo D. Mortality associated with stopping statins in the oldest-old – with and without ischemic heart disease. Medicine. 2021;100(37):e26966. doi:10.1097/MD.0000000000026966.
高齢者における薬剤の減薬(deprescribing)は、副作用の低減、生活の質(QoL)の向上、ポリファーマシーの解消、医療費削減などの目的で推奨されている。
80歳以上の「最も高齢な高齢者(oldest-old)」におけるスタチン使用は一般的で、介護施設では17~39%、在宅では12~59%の割合で使用されている。
近年、80歳以上の高齢者におけるスタチン使用は1999年に比べ2~3倍に増加している。
しかし、この年齢層のスタチン使用に関する明確なガイドラインは存在しない。
過去のランダム化比較試験(RCT)では、高齢者におけるスタチン使用と死亡率低下の関連は示されていない。
スタチンの副作用(筋症、肝炎など)は高齢者においてより顕著である可能性がある。
これまでに行われた唯一の前向き研究では、終末期の高齢者(平均年齢74.1歳)でスタチンを中止すると生活の質が向上し、60日後の死亡率に影響しなかった。
80歳以上の高齢者におけるスタチン中止の影響はこれまで検討されたことがなく、特に虚血性心疾患(IHD)を有する患者では、医師がスタチン中止をためらう傾向がある。
年齢・性別(基本的な交絡因子)
高血圧、糖尿病、認知症、心房細動、慢性腎不全、がんなどの併存疾患(Table 1に記載の慢性疾患)
機能的自立度(独立・軽度依存・重度依存)
栄養状態(低アルブミン血症など)
スタチンの種類・投与量(スタチンの種類によって影響が異なる可能性)
服薬アドヒアランス(実際にスタチンをどの程度服用していたか)
生活習慣(食事、運動習慣、喫煙・飲酒)
社会的要因(家族の介護状況、医療アクセス)
スタチン中止の理由(医師の判断基準や患者の希望の影響)
後ろ向き観察研究のため、因果関係を確定できない(無作為化比較試験ではない)。
スタチン継続群(n=43)が小さく、比較対象として適切でなかった。
1年間のフォローアップでは短すぎる可能性(5年以上の追跡が望ましい)。
スタチン中止後の再開状況が不明(多くの患者は中止後も再開しなかったと推測)。
心血管死のデータがなく、全死亡率のみを評価(より詳細なアウトカムが必要)。
対象患者の選択バイアスの可能性(特にIHD患者でのスタチン中止判断)。
副作用(筋痛・肝機能障害など)のデータがない(スタチンのデメリットを考慮できていない)。
「最も高齢な高齢者」におけるエビデンスが不足しているため、さらなる研究が必要。