SGLT-2阻害薬(SGLT-2i)の使用によって、膀胱がんおよび腎がんの報告リスクの増加と関連していました。がん全体のリスク増加はみられませんが、さらなる長期的観察研究による確認が必要です。
Investigating Risk of Cancer with Sodium‑Glucose Cotransporter 2 Inhibitors: A Disproportionality Analysis in the WHO Global Pharmacovigilance Database Vigibase®️
2014年〜2023年にWHOのVigibase®️に報告された18歳以上の患者186,071例(うちSGLT-2i関連がん症例は644例、平均年齢66.5歳、男性66.3%)
SGLT-2阻害薬(エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン)
GLP-1受容体作動薬およびDPP-4阻害薬を対照とした
がんの報告オッズ比(Reporting Odds Ratio: ROR)、特にがんの種類別の分析
※シグナルとは、注意が必要な統計的傾向のことであり、因果関係を示すものではありません。
WHOのVigibase®️を用いた症例/非症例の比率を評価する仮説生成型の薬剤疫学的ディスプロポーショナリティ分析
Vigibase®️(ヴィジベース)とは、世界保健機関(WHO)のUppsala Monitoring Centre(スウェーデン・ウプサラ監視センター)が管理する、世界最大の薬剤有害事象(副作用)データベースです。
項目 | 内容 |
---|---|
設立 | 1968年(WHOプログラム開始)、現在はUppsala Monitoring Centreにより運用 |
内容 | 医薬品に関連する**有害事象(ADR: Adverse Drug Reactions)**の自発報告 |
データ数 | 約3,600万件以上の個別症例安全報告(ICSR: Individual Case Safety Reports)を収録(2024年時点) |
加盟国 | 150カ国以上の薬剤監視機関が参加(各国の保健当局・薬剤監視機関が報告を送信) |
目的 | 副作用のシグナル検出(signal detection)と国際的な薬剤安全性の監視 |
アクセス | 原則として一般公開はされておらず、アクセスにはWHOまたはUppsala Monitoring Centreの許可が必要 |
分析法 | ディスプロポーショナリティ分析(例:Reporting Odds Ratio, Bayesian methodsなど)によってシグナルを検出 |
この論文では、2014年〜2023年の間にVigibase®️に報告された、SGLT-2阻害薬とがんの関連について、ディスプロポーショナリティ分析(reporting odds ratio, ROR)を用いて解析されています。
Vigibase®️は、各国の自発報告制度(例えば日本ではPMDA、アメリカではFDAのFAERS)が収集したデータをWHO経由で統合したものです。
「シグナル=因果関係」ではなく、「注意が必要な統計的傾向」として解釈されるべきものです。
薬剤疫学におけるディスプロポーショナリティ分析(Disproportionality Analysis)は、有害事象(副作用)の報告傾向から、安全性シグナル(signal)を検出するための方法です。特に、自発報告データベース(例:Vigibase®️、FAERS、JADERなど)で広く用いられます。
以下のような「薬剤と特定の有害事象の組み合わせ」の報告頻度を評価します:
有害事象A | その他の有害事象 | 合計 | |
---|---|---|---|
薬剤X | a | b | a + b |
他の薬剤 | c | d | c + d |
ここから、次の指標を計算します:
Reporting Odds Ratio (ROR)
ROR=(a/b)/(c/d)=(a×d)/(b×c)
他にもProportional Reporting Ratio (PRR)、Information Component (IC)、Empirical Bayes Geometric Mean (EBGM) などの指標が用いられる場合もあります。
一般的に、RORの95%信頼区間の下限 > 1かつ報告数が3件以上であれば「シグナルあり」とみなされます(本研究ではEMA基準を採用)。
早期検出に有効:市販後すぐの薬剤に関する未知の有害事象シグナルを素早く発見可能。
希少事象も検出可能:ランダム化比較試験(RCT)では検出困難なまれな副作用にも対応。
国際的な大規模データ活用:Vigibase®️のような巨大データベースによって広範な傾向分析が可能。
限界項目 | 内容と影響 |
---|---|
因果関係は不明 | RORは「関連性」を示すが、因果関係の証明にはならない。 |
報告バイアス | 新薬やメディア注目薬は報告されやすく、**ノトリエティバイアス(知名度バイアス)**がかかる。 |
アンダーレポート | 有害事象の大半は報告されないため、過小評価または過大評価の可能性がある。 |
共通リスク因子の混同(交絡) | 例:喫煙・肥満・既往症などが調整されないと交絡バイアスが生じる。 |
診断の正確性に依存 | 症例の診断が正しくない場合、誤った関連が示されることもある。 |
使用量・曝露期間の不明確性 | 自発報告では用量や使用期間の情報が不十分なことが多い。 |
重複報告の可能性 | 同一症例が複数回報告されることがあり、正確な件数把握が難しい。 |
仮説生成:この手法は「仮説生成型研究(hypothesis-generating)」として、次の研究の出発点となる。
早期警告システム:市販後の安全性監視(ファーマコビジランス)の中心的役割。
総がん報告におけるSGLT-2iのRORは0.95(95% CI: 0.87–1.05)で、全体としてのシグナルは認められなかった。
膀胱がん: ROR 4.46(95% CI: 3.23–6.17)
腎がん: ROR 1.84(95% CI: 1.25–2.69)
性別・年齢別でも膀胱がんのシグナルは一貫して認められた。(例: 女性 ROR 8.86、男性 ROR 3.89)。
ダパグリフロジンは膀胱がん(ROR 4.12, 95% CI: 2.94–5.75)と腎がん(ROR 1.74, 95% CI: 1.01–2.99)で最も高いリスクを示した
感度分析では、腎がんのシグナルは一部の解析で有意性が失われた。(例: 医師/薬剤師による報告では ROR 1.46, 95% CI: 0.85–2.52)
他のがん(乳がん、肺がん、大腸がんなど)については有意な関連なし。
がん種 | SGLT-2iによるROR (95% CI) |
---|---|
総がん | 0.95 (0.87–1.05) |
膀胱がん | 4.46 (3.23–6.17) |
腎がん | 1.84 (1.25–2.69) |
乳がん | 0.70 (0.52–0.93) |
前立腺がん | 0.94 (0.64–1.37) |
結腸がん | 0.85 (0.62–1.18) |
肺がん | 0.90 (0.66–1.21) |
胃がん | 0.76 (0.50–1.16) |
肝胆道がん | 0.59 (0.41–0.86) |
皮膚がん | 0.57 (0.26–1.25) |
血液がん | 0.60 (0.44–0.81) |
Gautier P, Elbaz M, Bouisset F, Despas F, Montastruc F. Investigating Risk of Cancer with Sodium‑Glucose Cotransporter 2 Inhibitors: A Disproportionality Analysis in the WHO Global Pharmacovigilance Database Vigibase®️. Drug Saf. 2025. https://doi.org/10.1007/s40264-025-01546-5
SGLT-2阻害薬(SGLT-2i)は心血管イベントの予防効果により使用が急増している。
長期使用が想定される薬剤であり、がんリスクの可能性が懸念されている。
一部の糖尿病治療薬(例:ピオグリタゾン)は、膀胱がんリスクを上昇させることが知られている。
SGLT-2iに関しては、膀胱がんとの関連性が一部の治験で示唆されたが、他の研究では明確なリスク増加は示されていない。
既存研究には追跡期間が短いなどの方法論的限界があった。
本研究では、WHOのVigibase®️を用いたディスプロポーショナリティ解析により、がん報告リスクのシグナル検出を目的とした。
年齢(四分位数で調整)
性別
報告国(米国 vs その他)
発がん性のある併用薬(IARCに基づくリスト)
喫煙歴
肥満(BMI)
糖尿病の罹病期間や重症度
SGLT-2iの使用期間・累積投与量
食事やライフスタイル因子
医療アクセスの差、診断精度の地域差
自発報告(ICSR)の限界として、発生率や因果関係を評価できない。
未測定の交絡(喫煙、肥満、糖尿病の重症度など)を考慮できない。
データの一部欠損や併用薬の報告の不完全性がある。
COVID-19パンデミックやGLP-1作動薬の話題性による報告バイアス(ノトリエティ・バイアス)も結果に影響した可能性。
本研究は仮説生成的研究であり、因果関係を立証するものではない。
ハルシネーション発生の可能性(確率):3%未満
情報はすべてPDFファイルに基づいています。
参照データは明確に記述され、論文からの抽出であるため、ハルシネーションのリスクは極めて低いです。
最もハルシネーションの可能性が高い部分:
「ダパグリフロジンの薬物動態(長時間の尿中排泄)」に言及した考察箇所の要約
この記述は論文内に存在しますが、機序の詳細については仮説であり、確証された事実ではありません。そのため、最もハルシネーション的解釈に近い部分といえます。