Senspace
Part1で語られた重要なポイントは「オンラインでつながればつながるほど、実際には深いつながりを感じなくなる」ということでした。この問題は10年以上も前から議論されていますが、さらに深刻になってきているように感じます。
さて、いま私たちが直面している状況のまま進んでいくとどのような未来があり得るでしょうか?本記事では、シナリオプランニングという手法を用いていくつかの未来を想像してみたいと思います。そうすることで現時点で起きている様々な事象を当てはめて新しい理解を得られることを期待しています。
そのうえで、Senspaceとして目指す理想の未来と、どのような方法でそこに辿り着こうとしているかについて書きます。
💡シナリオプランニングは「未来の物語をつくる」ことを目的にした考え方のフレームワークで、未来に起こりそうなことをイメージし、それに基づいて選択肢や戦略を考えます。具体的な説明はしませんが、テーマに対して重要な要因を特定してシナリオの軸を作ります。そして、各シナリオを詳細に描き、どの未来が来ても適応できるように準備したり、あるシナリオから別のシナリオに移行するための計画をつくったりするために使われます。
「コネクションパラドックスの時代において、つながりを持ち続ける」というテーマでいくつかの未来を考えてみます。この未来を考えるときに、Senspaceの視点から重要だと考えられる2つの要因から未来を考えてみます。
真正性の重要度: だれでも簡単に満足感を得られるものを求めるか、真剣に向き合いチャレンジを乗り越えることで得られる満足感を求めるか、どちらを好む傾向にあるか。
技術的意識の程度: 生み出した技術をどのように使ってもらうか、与えられた技術をどのように使いこなすか、について考えて実践することがどれぐらい当たり前になっているか。(デジタル技術を技術と読んでいます。)
2つの主要因はわたしが個人的に決めましたが、Senspaceとしても大切にしたい価値観です。
真正性は本物であるかどうかという意味ですが、本物であるということはそれだけ深みと味わいがあります。一方で、それを手に入れるためにはコストがかかるものです。普段の生活でも、手軽に満足できるものを消費する一方で、深さを求めている自分もいる感覚は多くの人が持っていると思います。
ドーパミンを刺激するコンテンツを消費し続けるようにデザインを洗練させるつくり手と、それをわかっていながらもやめられない使い手のいびつな構造があります。これを変えられるかは、真正なものに向き合えるように社会も個人もなれるかどうかが大きな要因だと考えています。
物事がどうあれば真正であるかといえば、ここでは自分自身がこれは楽しい、目の前のものと向き合えていると実感できることだとしておきます。
技術発展の速度を止めることはできないと思いますし、するべきではないと思います。一方で、意図のあるなしにかかわらず、その使い方によって自分を傷つけたり、誰かに損をさせたり、未来に負債を残してはならないです。これを防ぐための知恵とその浸透度はとても重要だと考えています。
真正性をより重んじる状態をつくろうとする時、どのような方法で実現するかはいくつかのオプションがあります。ここで技術をどのように扱うかが重要になると考えています。手軽に使えるところだけ使う方法もあれば、本物に近づくためのレバレッジをかけるために最大限活かすこともあれば、一切頼らないということもありえます。
この2つの要因を軸にマトリクスをつくり、各象限にラベルをつけたものが以下の図です。それぞれの象限を簡単に説明し、その未来についてイメージしやすいように特徴を書き出してみました。
この未来では、人々は本物で深いものを求め、調和のためのデザインを優先する技術哲学が受け入れられています。 技術は、信頼、共感、有意義なつながりを育むツールとなり、日常生活にシームレスに統合されて多くの人がそれを使いこなしています。
透明性とプライバシーの両立: 人々は自分の人生の一部を自由かつ同意の上で共有し、それが信頼の基盤として用いられている。
AIコーディネーター: AIが人の感情的な理解を深め、深く有意義な人間関係を築く手助けをしている。
クロスアイデンティティコラボレーション: 背景の違う人々があつまって文化交流し、一緒に考えて新しいものを生み出している。
豊かな感情のエコシステム: 表面的なエンゲージメントではなく、共感、創造性、コラボレーションなどより広い指標によって、深さのある評価がなされ、適切なインセンティブが設計されている。
高いアクセシビリティ: スキルレベルに関係なく、誰もがテクノロジーを使って生活を豊かにすることができる。
結果:
確かなつながりを実感できている。
社会全体の感情的幸福の強化。
テクノロジーは人と人とのつながりを代替するのではなく、強化する。
リスク:
地域間の哲学的不一致がグローバルな協調を妨げる可能性。
透明性重視のシステムによるプライバシーへの懸念。
この未来では、社会は効率と実用性に焦点を当てた技術哲学を信じており、真正性を犠牲にする傾向にあります。人々は人間関係を損得勘定して扱い、生産性をあげるためなら感情的なつながりを犠牲にすることをいとわずに技術を使っています。
取引的な関係: あらゆる人間関係を目的志向で考え、感情的な深みはあまりない。
ゲーム化された仕事: 競争的でゲーム化されたシステムにより、生産性にインセンティブが与えられる。
AIが創造性を支配: AIが生成するコンテンツが人間の表現を圧倒する。
単純で一般化しやすいライフスコア: 普遍的なスコアリングによって個人の社会的有用性が評価され、機会や地位に影響を与える。
結果
創造性や思いやりのような人間的価値の喪失。
社会的弱者のさらなる孤立。
リスク
超最適化されたシステムによる無関心と燃え尽き。
"非生産的 "とみなされる個人の疎外。
この未来では、人々は本物で深いことを重要視している一方で、一貫した技術哲学を欠いています。ハイパーローカルなコミュニティでは有意義な人間関係が重要視されると同時に、孤立化と技術的不平等が社会全体としての進歩のボトルネックになっています。
ネオ・ヴィレッジ: ハイパーローカルコミュニティが繁栄し、信頼と価値観の共有が育まれる。
ローカライズされたデジタル空間: コミュニティは独自の文化を反映した独自のデジタル空間やツールをつくりだす。
エリートへの不信: ビッグテックへの懐疑心が、草の根のイノベーションを促進する。
自主的な断絶: 定期的にテクノロジーから離れ、現実世界の人間関係に集中する。
結果:
文化的表現が豊かになる。
ローカルでおきたイノベーションの社会的影響は限定的。
分断化による孤立と社会の進歩の遅れ。
リスク:
断片化によりグローバルな協力が困難。
超ローカルシステム間の相互運用性の欠如。
この未来では、テクノロジーは急速に進歩するものの、社会には指針となる技術哲学や深く本物であることを重視する姿勢が欠けています。利便性と単純なエンゲージメントを優先し、感情的には浅いが中毒性のある体験があふれています。
受動的消費: 人々はAIによってキュレーションされたドーパミンをすぐに刺激してくれるコンテンツを永遠に消費する。
デジタル伴侶: 自分に最適化されたAIが伴侶となり、常に最適化されて気持ちの良いコミュニケーションをとってくれる。
逃避文化: 技術を成長や可能性の拡張のためではなく、現実から逃げるために使う。
使い捨てアイデンティティ: 急速に変わっていく社会に応じて、デジタル空間でのアイデンティティをどんどんつくり変えていく。
結果:
あらゆるものへの信頼の低下。
感情をコントロールできない人の増加。
プラットフォーム企業は利益のためにユーザーを搾取し、メンタルヘルス問題を悪化させる。
リスク:
絶え間ない刺激による感情の燃え尽き。
テクノロジーに精通した人々とそれ以外の社会格差拡大。
この4つのシナリオを見ながら今の社会と重ね合わせていくと、いくつか頭に浮かんでくることがあります。もしよければ自分の仕事や活動に重ねてどのようなアプローチができそうか想像してみてください。
この4象限だけで未来は到底語れないが、思い当たる節がたくさん出てくる。
Harmonized Connectionは理想であるが、そこに行き着くにはまだまだやることが多く、実験を積み重ねないと具体的なイメージがわかない部分も多い。
Addicted Digital Easeが最悪のシナリオであることはわかるが、Efficient Isolation and Transactional LivesとAuthentic but Soiledはともに良い側面もあり、今の社会と重なる部分が多い。
Harmonized Connectionの未来に向かうためには、Efficient Isolation and Transactional Livesの方から向かうのか、Authentic but Uncooperativeの方から向かうのかどちらの筋がよいか。
4象限から今の社会をみてみると、左上のEfficient Isolation and Transactional LivesとAuthentic but Siloedの2つに分断しているように見ることができます。技術と人との関係性を最大限つかって自分の利益を最大化する側と、それに追いつけなかった者同士で固く自分たちの世界に閉じこもろうとしている側と、その溝はもう埋めることができないように見えます。どちらの世界も行き過ぎれば、私たちが人間であるための重要な要素を部分的に諦めないといけないだろうし、それが持続的な幸せにつながっているようにも思えません。
Senspaceは「人々が自分のことを必要としている人となめらかにつながり、自分のデジタルアイデンティティに愛着を持てる世界」をつくること、Harmonized Connectionへ向かうことを目指しています。その時、Authentic but Siloedから移行するのか、Efficient Isolation and Transactional Livesから移行するのか、いずれとも違う方法かいくつかのステップが考えられます。今私たちは、Authentic but Siloedから移行を始めるアプローチを取ろうとしています。
具体化すると
まずは人同士が向き合うことのできるローカルなコミュニティから始める。
その中でスマホで完結する体験やつながりをあえて現実とつなげるための活動を増やしていく。
活動のなかで関わる人同士で、創造的、共感的、発見的などいくつかの角度から個人の特徴を見出しあうことで、いいねやフォロワーのようなシンプルな数字以上の評価データを生み出す。
相互に特徴を見出しあうことによる自己認識のアップデートに加えて、それをデジタルアイデンティティとして、デジタル上でも扱えるようにする。
形成されたアイデンティティによって次に体験するべきことや、ともに活動するべき仲間を見つけられるようにする。
活動に参加しつづけることで、強い関係性を持ち続けられるだけでなく、自分のアイデンティティが深まり、自信や愛着が芽生えてくる。
このような1つの流れが想像できます。
1つのコミュニティから始めた仕組みを他のコミュニティにも導入して相互に連携できるようにすれば、Harmonized Connectionの世界を体現する集団として熱量を持ち、周りから羨ましがられるムーブメントに成長していくことが期待できるでしょう。
そうすれば、Efficient Isolation and Transactional Livesの世界のいびつな構造に気づいて別の世界を探している人たちや、それに疲れた人たちのポジディブな逃げ場にもなります。
そんな場所があれば、今まで誰にも話せなかったことも話せる相手や、お願いしづらかったことをお願いできる相手が見つかるようになるかもしれません。さらに今になって、話を聞いてもらったり、お願いをしたりすることは互いにいい影響があることも多いと感じます。頼む側はもちろんだし、頼まれた側は必要とされている実感を持てるでしょう。人に聞くより、AIに聞くほうが早くて頼りになる時代に人同士で頼り合う空気や文化をつくるのはとても意味があると考えます。
ドーパミンドリブン、マルチタスク、スマホ依存にあまりにも慣れすぎた私たちがこのような道を進むためには、さまざまな工夫や仕掛けが必要であることは間違いありません。Senspaceはこれからたくさんの実験を通して、Harmonized Connectionの世界に向かっていきます。