しばしば槍玉に挙げられる、「それってブロックチェーン使う必要あるんですか」とか「クリプトって世の中の役に立ってないですよね」という論説について簡単に自分の考えを表明しておきたいと思います。
ちょうど同じタイミングで下の二つのツイートがあったので。
Chris DixonのStrong and weak technologiesでは、これまで起きた技術革新に関して「その技術にしかできないこと」をStrongとして、「その技術じゃなくてもできるけど、それ使った方がマシだよね」をWeakと置いています。
どの技術に関してもそういった視点はあって、長期的に見ればStrongなユースケースの方が採用されていく、という話です。確かにBlockchainを現時点で俯瞰してみた時にそれが実際に世の中をより良くしているケースは他の技術に比べてもまだ少ないようにみえるので、Weakな使い方の方が今は多いのではないかと思います。ちなみにこの整理で言うとMemecoinはStrongで、予測市場はWeakに分類されます
(予測市場はweb2でも作れるけど、memecoinはクリプトじゃないとできないので)
この観点からクリプトにしかできないことを考えていく必要があると思います。
例えば公共財の話とか金融包摂はまさにクリプトにしかできない事例の一つです。だから公共財に注目する人たちがクリプトだと多いんですが、ここをまだ理解できてない人は多そうです。なぜかと言うと、そもそもBlockchainとは「誰でもアクセスできる」という強い性質を持つからです。
金融包摂とはそもそも「銀行口座やクレジットカードを持つことができない人にも金融サービスにアクセスできるようにしよう」というコンセプトなのですが、実際クリプトを始めるときにKYCとか小難しいアンケートとか必要なかったと思います。本当に誰でも口座を持てますし、実際に貧困国や発展途上国での採用率が高いです。が!それだけじゃなくてもっと身近でも「中学生や高校生がクリプトをやってる」という話を聞いたことはありませんか? それです。すでにクリプトにしか提供できない価値を世の中に提供できています。
誰でもアクセスできると言うことは、公共物だということです。つまり、(具体的にはEthereumを指して説明しますが)イメージとしては誰でも使える一台のパソコンがBlockchainです。"一台"っていうのがめちゃくちゃ大事でこれがPermissionlessとかComposabilityとかを説明してて、通貨を作る時に便利な要素なんですが、一旦置いときます。
“a programmable computer that lives in the sky, that is not owned by anyone and that anyone can use.”
そもそもBlockchain自体が公共財としての性質を持っているので、その上に作られるアプリやプロトコルもそれを利用して、誰でも利用できるものを作ろうね、っていうのは結構自然な発想だと思います。なので、逆に限られた人だけが使えるクリプトのサービスとかトークンゲートとかはぶっちゃけ自分は基本的に「ふーん」って思ってます。そもそもこの基礎を理解した上でExclusiveなサービスを作ろうとしてるなら全然いいと思いますが、守破離の守ができてない状態で破をやろうとしてるケースをよく見るのでそれはなんか「へー」と思ってしまいます。
つまり、クリプトっていうのはインターネットの世界に公共財を作ってみようぜっていう運動でもあるのです。それがStrong Technologyのひとつです。
他にも今だと予測市場は世の中の役に立っているサービスの一つです。Polymarketの結果は海外のメディアでもしばしば引用されていて、選挙の市況把握に役立っています。
あとは考え方次第ですが、金融包摂の文脈で言えばDeFiだってUnbanked(銀行口座を持たない)な人々に金融サービスを提供してるとも言えますし、基本的にはBlockchain上に乗ってるアプリはそういった人々にサービスを提供できているので結局みんなが潜在的に気にしてるのは「そのサービスアダプションしてるんですか」という問いだと思います。例えば自分が前にやっていたPhiだって、それが10億人に使われていれば「これは確かに、他サービスの活動をPermissionで視覚化して自己表現できるクリプトが役に立ってる例だ」となるとも思いますし、結局はアダプションしてるかどうかって話だと思います。
「実際に世の中で使われているサービス」と「(潜在的に)クリプトだからできること」は少し違っています。
先に説明したのは実際に役に立っているケースで、クリプトでしかできないことはもっとたくさんあります。それはComposabilityやPermissionlessという言葉で説明されたりしますし、もっと他にもたくさんあります。
例えば、
Uniswapに対して勝手にサービスをくっつけて新しいプロダクトを作ったりできる
UniswapをProtocolとしていろんなフロントエンドを作れたりできる
は、クリプトにしかできないことですし、Hyperstructureもクリプトにしかできないサービスのコンセプトです。NFTやミームコインもクリプトにしかできないことです。実はそういう観点でPrincipiaという記事を書きました。
で、重要なのは「役に立ってるか」という部分だとは思いますが、それでいうと最近zkTLSという技術が結構潜在的に役に立ってくる可能性があるんじゃないかと思ってきてます。
zkTLSはざっくり言うとweb2のデータ(特に個人情報などのプライバシーデータ)を検証して、オンチェーンにその検証結果を持ってこれるようにする技術です。
有名なプロジェクトは以下。ReclaimとzkPass
クリプトが役に立ってないと言われる理由としては、見方によっては実はめちゃくちゃ排他的だからです。先に、「誰でもアクセスできる」と言ったのに矛盾してるようにも聞こえますが、クリプトのサービスって基本オンチェーンでありたがるんですよね。オンチェーンの情報を使ってうんぬんとか、結構思想とか扱ってるデータや対象ユーザは閉じてるケースが多い。つまり、ターゲットユーザは基本的にクリプト使ってる人になることが多い。なんですが、「クリプトって実際役に立ってるの」という質問にプロダクトで回答するなら、オフチェーンのものを対象に展開できた方がいいわけです。
zkTLSを使うと、マイナンバーのデータ、MBTI、銀行口座の残高、Netflixのマイリスト、Steamのゲームのプレイ時間みたいな個人情報までプライバシーを保ちつつ検証できるようになります(API不要)。これは普通にweb2でもできなかったことです。
アイデアとしては例えば、
Steamでマインクラフト100時間以上プレイしている人に、別のゲームの無料ダウンロード権をあげる(オフチェーンでVampire Attack)
有料サービス(例えばNetflix)が一時的に使用できなくなり、エラーページが表示されてしまっていた場合に補償として対象者に1ドルを配布する
みたいなことができるようになります。今ではウォレットを持つためにはソーシャルログインで十分なので、オフチェーンデータを対象にしたサービスを展開することでweb2ユーザでも自然にクリプトを利用するフローを作れます。
別の説明の仕方をすると、zkTLSを使うことでPermissionlessで他サービスのデータを引っ張ってきて、勝手にサービスをつなげることができるようになります。つまり、オフチェーンにオンチェーンの考え方を展開できるようになります。
また、クリプトを使うことでお金の流れを変えることができます。
web2
多 -> 1 はできた。
例:Youtubeのスパチャ
1 -> 多は難しかった。
例:Amazonで商品買ったときに「レビューしたら500円分のギフトカードプレゼント」みたいなやつ。流れとしては、商品買ってレビューして、そのレビューをスクショで撮ってメールで送ると、ギフトカードが送られてくる。という面倒なフローを行う必要がある。
例:企業がユーザに配れたのはポイントやクーポンだけだった
web3
1 -> 多が簡単になった!
例:エアドロップ
つまり、「web2の世界において1->多でアセットを配りたい」という需要がある分野に対して非常に適合する可能性があります。先に挙げた、「有料サービス(例えばNetflix)が一時的に使用できなくなり、エラーページが表示されてしまっていた場合に補償として対象者に1ドルを配布する」みたいなアイデアはまさにその例ですし、サービス保険という新しい概念を切り開きます。
他にも色々な使い方がありそうです。ポイントとしては、クリプトのユーザではなくweb2ユーザを対象にできるという点です。zkTLSを使ったサービスとして筋が良さそうなのは以下2点を押さえたものです。
web2では取得できなかったデータを対象にして
1->多にアセットを配る
ようなサービス。
長くなってしまったのでこの辺で。
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