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ゲーム業界からオープンメタバース構築を目指す、Animoca Brandsの創業ヒストリー(後編)

「Block Post」について

「Block Post」は、未来を考える上で役に立つ・面白いサービスや技術、会社などを紹介・解説するメディアです。主にはブロックチェーン、メタバース、NFT等に関する、独自にリサーチ・分析した情報を発信していきます。

このMirrorでは、その中でも深掘りした分析記事をお届けしていきます。 第1弾として今注目の「Animoca Brands(アニモカブランズ)」を2回にわたってお届けします。本記事は「Block Post」を運営するHonest株式会社 久野亮平と、余頃沙貴(よごろ さき)との共同制作です。

はじめに

「Animoca Brands(アニモカブランズ)」の創業ストーリーを掘り下げる記事の第2回。前編では、創業者であるYat Siu氏が香港で起業し、紆余曲折ありながらも、現在につながる【ゲーム×IP(Brands)】のビジネスモデルを確立したところまでを追いました。

本記事では、ついにゲームデベロッパーだったAnimoca Brandsが、ブロックチェーンのポテンシャルに気づき、事業へ取り入れていく様を紹介していきます。

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【ついにWeb3へ】2018年 AI・ブロックチェーン技術に本格参入

Animoca社の社内ベンチャーとして、キャラクターIPのパートナーシップ拡大のために創業されたAnimoca Brands。共通プレイシステム×キャラクターの組み合わせで複数タイトルを作ると”Moduler Development Methodology”により、順調に事業を伸ばします。2017年末には、同じく香港を拠点とするZeroth社のAIマシンラーニング特化アクセラレータープログラムへ出資側として参加。AI領域のスタートアップにパスを作り、ゲーム開発において最新技術を取り入れていきます。

大きく潮目が変わったのは2018年。世界的にNFTが注目されるきっかけをつくったブロックチェーンゲーム「CryptoKitties」とのライセンス提携、そしてピクセルアートゲーム「The Sandbox」を持つPixowl社の買収です。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

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IP・ライセンス事業のノウハウを活かし「CryptoKitties」の中国ローンチを独占

Animoca BrandsがWeb3領域に参入していく直前の2017年は、今振り返ると”NFT元年”とも言われます。覚えている方もいると思いますが、2017年といえば日本でも「億り人」というワードが飛び交ったビットコインバブルのタイミング。このNFT/ブロックチェーン技術注目のきっかけの1つが、世界初のブロックチェーンゲーム「CryptoKitties」です。「CryptoKitties」は、2017年11月28日にリリースされました。「たまごっち」のように猫のキャラクターを育成し、ユーザー間で取引できるゲームです。リリース初月1ヶ月でなんと取引量が2,000万ドル(約23.4億円 *1)を超え、ある猫のキャラクターは250ETH(2018年1月当時で約33万ドル、約3,860万円)で取引されていたそう *2。

Animoca Brandsはこの波を捉えます。2018年1月25日に「CryptoKitties」の開発元であるAxiom Zen社(その後社内ベンチャーのDapper Labsとして独立)と業務提携し、中国におけるライセンス独占契約 *3を獲得するのです。「CryptoKitties」のリリースが前年の11月28日ですから、リリース後約2ヶ月で契約を獲得したことになります。

この提携後、まずは中国にて5,000人に限定したベータ版をローンチ。このローンチ時には、中国の国民的人気キャラクター「Tuzki(ツヅキ)」を生み出したMomo Wang氏がブランドアンバサダーとして参画し、スペシャルエディションをリリース、大きな注目を集めます。これは「CryptoKitties」にとっても初めてのアーティストコラボレーションだったようです *4。まさにIPキャラクターに強いAnimoca Brandsの支援があったからこそだと思われます。その後台湾、香港といったアジア圏に進出。台湾最大のスマホ端末メーカーであるHTC Corporationと提携したコラボモデル発売など、ゲームの世界に閉じないライセンス戦略を仕掛けていきました *5。

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2018年11月には、中国における提携に留まらず、開発元であるDapper LabsにシリーズAで出資します *6。その後、Dapper Labsには現在a16zやGV(旧グーグルベンチャーズ)も出資し、評価額は76億ドル(約8,892億円)となるブロックチェーンの有力企業となります *7。Dapper Labsは後にブロックチェーンのインフラ技術「Flow」を開発。その「Flow」をAnimoca Brandsが保有するゲーム開発技術として採用(2021年)するなど、今でもAnimoca Brandsにとってのキープレイヤーです。

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「CryptoKitties」ライセンス取得の裏にあった、Fuel Powered, Inc.社 の買収

「CryptoKitties」のライセンス独占契約締結と同日である、2018年1月25日に発表されたもう一つのリリースがあります。それがFuel Powered, Inc.社の買収です。

2011年に設立された Fuel Poweredは、ゲームパブリッシャー向けにゲーム内機能(ライブイベント、マルチプレイ等)をクラウドで提供していた会社。AIの機械学習モデル、そしてブロックチェーン技術の開発力を強みにしており、SEGAやバンダイナムコ、そして当時「CryptoKitties」の開発元だったAxiomZenと取引していました。

当時Fuel Poweredは8人のチーム *7。売上規模は40万ドル規模(約4,680万円)でしたが、Animoca Brandsはその倍近い75万ドル(約6,910万円 *8)で60%のシェアを獲得し買収します。前述のアジア圏におけるアプリリリースは、当時からAIとブロックチェーン技術の開発力があったFuel Poweredとの共同開発によるものだそうです *9。このFuel Poweredの買収とチームのジョインこそが、Animoca Brandsのブロックチェーン領域参入の最大のきっかけになったと言ってもよいでしょう。 Fuel Powerdの創業者 Mikhael Naayem氏は、Dapper Labの共同創業者として、現在同社のChief Business Officerを務めています。

「The Sandbox」開発元を買収し、ブロックチェーンゲーム化

「CryptoKitties」のプロジェクトでそのポテンシャルに気づいたAnimoca Brandsは、次の一手として「The Sandbox」のPixowl社を買収します。

2018年8月の買収時、「The Sandbox」はまだブロックチェーンゲーム化する前の、言ってしまえば”普通の”ゲームでした。ピクセルアートでユーザーが自由にアイテムを作ったり空間を構築したりする、マインクラフトと似たUGC(User Generated Contents)ゲームです。とはいえすでに2018年1-6月で100万MAU、累計4,000万ダウンロードという人気のゲームでした *10 。

Animoca Brandsにとっての決め手は2つ。「The Sandbox」がすでにスヌーピーのPeanutsや、猫のGarfieldなどのキャラクターIPとコラボしており、Animoca Brandsのビジネスモデルと相性がよかったこと。そして当時のPixowl開発チームもNFT×ゲームの魅力に気づいており、ブロックチェーン技術を取り入れた次のプロダクトロードマップがあったことです。(彼等も2017年末のCryptoKittiesをきっかけに興味を持ったそう *11)

「The Sandbox」のブロックチェーンゲーム化。両社のこのプロジェクトは、2019年のマーケットプレイスオープンから着手されます。その後ゲーム内アイテムや土地がユーザー間で取引されていき、今やゲームアイテム、ゲーム内の空間、コミュニティ運営など、全てのゲーム資産がNFTトークンとして表現されています。2022年3月にリリースしたアルファ版 シーズン2では、200万ユーザーが登録、1.9万人が「LAND」を所有しているそうです *12。

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一気にWeb3へオールイン

2018年に「CryptoKitties」「The Sandbox」で、ゲーム×NFT領域のポテンシャルを確信したAnimoca Brandsは、その後一気にNFT/ブロックチェーン領域にオールインしていきます。DecentralandやWAXとのパートナシップ、「Axie Infinity」のSkymavisやOpenSeaへの出資。これらのプロジェクトへの投資は、なんと2018〜2019年の短期間に一気に行われています。

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今2022年時点から考えると、すでにブロックチェーン/NFT領域の超有名プロジェクトばかりに見えます。ただYat Siu氏にとって当時は「非常に孤独な戦いだった」そうです *13。この業界黎明期にリスクを持って大きな賭けに出たからこそ、今の驚くべきネットワークがあると言えます。

関連プロジェクトが複数レイヤー(インフラ、パブリッシャー、コンテンツなど)に渡ることで、Animoca Brandsグループ内での相乗効果も生まれています。例えば、自社のブロックチェーンゲームの基盤を、投資先であるDapper Labsの独自インフラ「Flow」に移行しました *14。Animoca Brandsにとってはブロックチェーン/NFT市場が今後拡大すればするほど、自社のゲームと投資プロジェクトのネットワークエフェクトが働き続けるでしょう。

ユーザーがデータ所有権を持つ、真のオープンメタバースを目指す

Animoca Brandsが今後ゲーム×NFT領域で目指すのは、”真のオープンメタバース”の実現 *15。このビジョンは、既存のMeta(Facebook)やGoogleなどプラットフォーマーに対するアンチテーゼでもあります。

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NFTの世界がこれまでと全く異なるのは、デジタルデータの所有権がユーザー側にあることだと、Yat Siu氏は捉えています。ブロックチェーン技術によりデータが誰でも捕捉できることで、例えばゲーム運営へ貢献したユーザーに貢献度に応じた価値を配分することができたり、プラットフォーム外でユーザーが自由に権利や価値を取引することができます。このような世界がデジタル上で実現すれば、プラットフォームの制限を受けることがなく、リアルな世界と同じくらい自由に各サービスを行き来し、経済活動を行うことができます。この状態こそが”真のオープンメタバース”であるとAnimoca Brandsは考えています。

この定義で考えると、仮にMeta(Facebook)やGoogleが、オンライン・オフライン上でメタバース空間を提供したとしても、それが従来のプラットフォーム型のビジネスモデルである限り、真のメタバースは実現できません。これはEpic GamesやRobloxでさえも同様です。

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そして、現在のAnimoca Brandsの特徴の一つは、ゲームデベロッパーである以上に、Web3領域での投資会社の様相であることです。実際に2021年のAnimoca Brandsの収益内訳を見ると、自社ゲーム収益の1.4億ドル(約163億円)に対して、投資プロジェクトや仮想通貨等のデジタル資産による収益がおよそ3.7倍の5.29億ドル(約618億円)にも及びます *16。

ユーザーへデータ所有権を移行し、”真のオープンメタバース”を実現する。このビジョンに取り組むうえで、いちデベロッパーではなく、市場全体を駆動する役割であることは非常に効果的です。投資先プロジェクトで共通の基準を作り、各プロジェクトが閉鎖的ではなく、ユーザーがデータを取引できるオープンな環境を作ることができるからです。今後は自社の「The Sandbox」を最高の実験場としながらも、プロジェクトへの投資を続け、プロジェクト間のシナジーと共通基準作りを進めていくと思われます。

「Animoca Brandsらしさ」と、今後の課題

以上、2回に渡ってAnimoca Brandsが今のかたちになるまでのヒストリーを追いました。

2014〜2017年にかけて【ゲーム×IPキャラクター】のビジネスモデルを確立。その後キャラクターライセンスの強みを活かし、「Crypto Kitties」をきっかけに2018年に一気にNFT/ブロックチェーンの波にオールイン。自社ゲーム開発だけではなく、有名ライセンスの取得、周辺プロジェクトへの投資によりネットワークを構築し、【ゲームコンテンツ×NFT】におけるリーディングカンパニーとなりました。

Animoca Brandsの一貫性は、自社内で完結せず、他社のアセットや技術を取り入れることで拡張することです。ソフトコンテンツ×ゲームエンジンの両輪でネットワークエフェクトを効かせ、さらに積極的投資により最新技術を調達してアップデートするモデルが、Animoca Brandsらしさと言えるでしょう。あるいはこのようなスタンスこそ、日々新しい技術が生まれるNFT/ブロックチェーン領域において拡大していくキーなのかもしれません。

最後に今後の課題についてお話します。Animoca Brandsが掲げる”真のオープンメタバース”にとってはデータ所有権がユーザーに移行することが必須条件でした。ただこの条件が技術的に満たされたとしても、Yat Siu氏が掲げる【ユーザーがデータ所有権を持つことで、自由に取引ができ適切な見返りを得る世界】に向けてはまだ他に満たすべき必須条件がありそうです。

例えばこの2022年3月16日、Animoca Brandsが提供する代表的ゲーム「F1® Delta Time」が突如サービス終了となりました *17。これは「F1®」とのライセンス更新ができなかったことによるものです。本来のAnimoca Brandsの掲げるビジョンを考えると、サービスが終了したとしても、F1® のNFTカーアイテムはその姿のままで、例えば同社の展開するREVV Racingなど他のブロックチェーンゲームで利用できても良さそうですが、まだ技術面やライセンス面の壁から、それは実現されておらず、同程度のNFTアイテムやトークンと交換するというオプションが提示されている状況です。

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また、ユーザーの見返りをどう設計するのかも論点も引き続き注目です。2022年3月24日、Animoca Brandsが支援するNFTプロジェクト「Bored Ape Yacht Club」運営元のYuga Labsが4億5000万ドル(約526億円)を調達したと話題になりました *18。その際さらに注目されたのは、メディアが取り上げたいくつかの数字です。(一部は流出したピッチ資料の内容でした)

まずはYuga Labsの非常に高い利益率。ピッチ資料によると、2021年の利益率はなんと95%を超えていました(この数字に関して、Yuga Labsはコメントを控えているとのこと)*19。この非常に高い利益率は、投資家やNFT関連スタートアップにとっては嬉しいニュースである一方、ユーザーからすると、Web3・分散化でしばしば期待されるユーザーやクリエイターへの還元に対しては気になるところです。

Yuga Labsが新規発行する「ApeCoin」のエアドロップ(新規発行トークンを無償配布するマーケティングの一種)の配分割合を見ても、他のプロジェクトと比較して大きく偏っているわけではありませんが、創業者やVCなどが20%以上の比率となっており、経済的なリターンや意思決定への影響力が少なくないことが見受けられます。

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NFT/ブロックチェーンの市場全体で存在感を増すAnimoca Brands。今後ビジョンの実現を目指し、マーケットリーダーとしてこれらの課題にどう対応していくのか、引き続き注視したいと思います。

Reference

*1 ドル/円のレートは117円で算出。以降同様 ※2022年3月12日時点

*2 https://www.pocketgamer.biz/asia/news/67405/animoca-announces-chinese-cryptokitties-deal/

*3 https://animocabrands.wixsite.com/newab1/cryptokitties-licence

*4 https://medium.com/cryptokitties/the-cryptokitties-artist-series-6c7c3c7c35e0

*5 https://animocabrands.wixsite.com/newab1/ab1-dapper-labs-htc-cryptokitties

*6 https://www.animocabrands.com/animoca-brands-invests-in-dapper

*7 https://www.coindesk.com/business/2021/09/22/dapper-labs-said-to-reach-76b-valuation-in-250m-funding-round/

*8 オーストラリアドル/円のレートは91円で算出。2022年4月4日時点

*9 https://animocabrands.wixsite.com/newab1/completes-acquisition-fuel-powered

*10 https://animocabrands.wixsite.com/newab1/animoca-brands-acquires-pixowl

*11 https://www.forbes.com/sites/stevenehrlich/2022/01/27/how-animoca-brands-built-a-5-billion-nft-fortune/

*12 https://venturebeat.com/2022/03/03/the-sandbox-metaverse-hits-2m-users-and-launches-alpha-season-2/

*13 ”Those were very, very early days, and we were somewhat lone rangers in the field.” https://www.forbes.com/sites/stevenehrlich/2022/01/27/how-animoca-brands-built-a-5-billion-nft-fortune/

*14 https://www.animocabrands.com/bring-motogp-stargirl-to-flow

*15 https://www.animocabrands.com/animoca-brands-raises-usd358888888-at-usd5b-valuation-to-grow-the-open-metaverse-jp

*16 https://www.animocabrands.com/animoca-brands-unaudited-financial-information-for-january-september-2021

*17 https://revvmotorsport.medium.com/f1-delta-time-to-cease-operations-announces-rewards-for-supporters-2fbf307fe89f

*18 https://www.theblockcrypto.com/post/137829/bored-ape-yacht-club-yuga-labs-virtual-land-sales-metaverse

*19 https://www.theverge.com/2022/3/22/22991272/yuga-labs-seed-funding-a16z-bored-ape-yacht-club-bayc-metaverse-other-side

*20 https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-03-19/nft-bored-ape-yacht-club-s-apecoin-benefits-backers-like-andreessen-horowtz