DAOは分散的な共同運営による新たな組織形態を構成し新しい運営方法を提供していますが、その概念の革新性と共に様々な課題に直面しています。
特にガバナンスの側面においては大きな影響力を持ついわゆるクジラや投票率の低さ、知識の偏りといった問題が浮き彫りになっています。
今回は、これらの問題を解決する新たなガバナンスのアプローチ、「Liquid democracy」をご紹介します。
まずDAOとは何か簡単におさらいしましょう。
DAOとは、Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)の略称で特定の所有者や管理者が存在せず、参加者同士の投票で意思決定し、事業やプロジェクトを推進する組織を指します。
Ethereum Foundationは以下のように定義しています。
中央集権的なリーダーシップを持たないメンバー所有のコミュニティ
インターネット上の見知らぬ人と共同作業するための安全な方法
特定の目的に資金を投入できる安全な場所
誰かと組織を運営することには、メンバーに対する信頼が必要ですが、インターネット上でしかやり取りしたことのない人を信頼するのは難しいですね。DAOはこれをブロックチェーンを使用して透明で誰でも検証することができる仕組みを構築し、運営することを可能にしています。
では実際はどうなのでしょうか?DAOは法整備や技術面など現状数多くの問題を抱えています。今回はガバナンス面についてみていきます。
知識や理解度の低い有権者に専門性の高い投票の権限を与えると適切な判断ができない場合がある
投票率が低い場合、少数の参加者の投票が全体の意思決定に影響を与えてしまう
現状DAOは分散しているために生じるデメリットがあるだけでなく、完全に分散しているとは言い難い状況であり、法整備や技術面など多くの課題が存在しています。ここでは特にガバナンス面に焦点を当ててみましょう。
ガバナンス面の課題として、知識や理解度の異なる有権者に専門性の高い投票権を与えること悪い方向に意思決定してしまう場合があります。そのため専門性のない人々が重要な意思決定に影響を与える可能性を排除しなければなりません。
また投票率の低さによって、少数の参加者の意見が全体の意思決定に大きな影響を与えてしまう可能性も考慮しなければなりません。これによって公平な意思決定が損なわれる可能性があります。
このように現在のDAOは分散化によるメリットだけでなく、中央集権制によるデメリットが多く存在します。完全な分散化を実現することは難しいものの、適切なバランスを見つけることが求められています。
Liquid democracyは、日本語に直訳すると「液体民主主義」で直接民主主義と間接民主主義(代表民主主義)を融合させた集団における意思決定の仕組みです。
Liquitous.comによる定義は以下の通りです。
間接民主主義と直接民主主義を融合させたガバナンスシステムである
物理的な制約を必要としない
意思決定のプロセスが明らかにされている
意思決定に関わる人々が可視化される
意思決定そのものの流れが可視化され、保存される(≒レビューが容易になる)
ガバナンスシステムへ参画する難易度が低い
代表者のみならず、その組織の一人ひとりが意思決定のプロセスに直接参画する
意思決定に直接関わる際に、自分自身の意見表明や投票を代議員に「委任」することができる
間接民主主義と直接民主主義を融合させたガバナンスシステムとは何?と思う人もいるので解説します。
直接民主主義はメンバーから直接意見を収集する形で、間接民主主義はこれらの作業が議員の裁量に任される形です。直接ガバナンスに参加するか間接的にガバナンスに参加するかの違いですね。
考え方はシンプルで、すべての有権者は与えられた質問に対して直接投票することも、自分の投票権を他の人に委任することもでき、同時に自分の委任をいつでも取り消す権利を保持しています。
DAO(直接民主主義)と中央集権(間接民主主義)のハイブリットと考えてもいいかもしれません。
ではLiquid democracyの利点はなんでしょうか?
以下に利点をまとめました。
意思決定する際に専門知識やリソースに依存する個々の有権者の権限を尊重し、投票権を分配できる
有権者は投票権を委任するか、自分の代わりに投票する権限を正式に付与することで、投票率が上がり、包括的な意思決定を行える
有権者が特定の専門知識を必要とする意思決定の際にその専門知識を有する代議員に投票権を割り当てられる(意思決定の配分を行うことができる)
有権者が代議員の投票権を再割り当てをできるようにすることで、個々の有権者とその代議員の間にフィードバックと説明責任のメカニズムを確立している
有権者を意思決定に長期間拘束することを回避し、それによって行われた意思決定が過半数の支持を欠く可能性を最小限に抑えられる
Liquid democracyは分散性と中央集権性を絶妙に組み合わせたその柔軟性と効率性からDAOの進化に大きな影響をもたらす可能性を秘めています。
Liquid democracyは実際にDAOにどう影響を与えるのでしょうか?
実際にLiquid democracyの概念が反映されているSynthetixの例を見てみます。
Synthetixのガバナンスは、Councilベース(委任型)となっており、民主主義や取締役会などの従来のガバナンスモデルと非常に近いものとなっています。このガバナンスシステムは、意思決定を少数の代議員に委任することで、ガバナンスの欠点を補っています。
前提知識
Councilとは、有権者による投票で選ばれたDAOのガバナンスを維持する役割を担っている委任型ガバナンス評議会で、DAOの意思決定などを行っている
実際にガバナンスの流れを見てみましょう。
提案(プロポーザル)を提出
有権者とCouncil間で議論が行われる
Councilメンバーで意思決定が行われる
従来のDAOのシステムと大きく違う点として、Councilが存在し、彼らに意思決定が委ねられている部分が挙げられます。
従来のDAOでは、知識の偏りがあるという問題に対して、意思決定を専門知識を持った人間に委ねることで専門性の高いものに対してより的確な判断を下すことができるようにしています。
また投票率の問題も有権者がCouncilを委任する際に一度投票を行うことでその後の意思決定に長期間拘束されることもなくなります。
ただし注意が必要なのは、Councilによる中央集権化のリスクです。Councilが導入されたDAOでは、少数のメンバーによってガバナンスが運営されるため、中央集権化の懸念が生じます。適切なバランスを保つために、Councilの構成や権限についての透明性と制約が欠かせません。またCouncilのメンバーは個別の利益や意見を追求せず、むしろコミュニティ全体の利益を優先する姿勢を持つことが求められます。
Synthetixのガバナンスについては以下のレポートで詳しくまとめられています。
https://messari.io/report/state-of-synthetix-governance
現在多くのDAOは組織全体で意思決定を行う際に、分散化と自律性を両立させるというジレンマに直面しています。Liquid democracyはこれらのソリューションの一つとして選択肢に入ってくるでしょう。
たしかに、Liquid democracyが中央集権的な要素を導入する側面があることは否定できません。しかしこの矛盾こそが、既存のDAOに新たな展開の機会をもたらすものと捉えることができます。DAOに中央集権要素を取り入れる試みは、終わりではなく新たな始まりと捉えることができるでしょう。
