こちらの作品は、箒神連作の第一作目となります。箒神は一連の連作とするつもりでおり、そこに込めるイメージや創作の衝動を徒然なるままに綴ってみたいと思います。

蛇にはカカ、ハハなどいくつかの古名が存在します。蛇木=ハハキ。即ち、箒。産神として伝わる箒神は、このハハキが転訛したもの、つまり大蛇とも考えられるのではないかという説に着想を得ました。蛇に見立てられる樹木のひとつに蒲葵があります。蒲葵はかつて箒や笠などに利用されていました。そこにも蛇と箒の関連が見受けられます。また、一部の地域では、お産の際に箒を立てかけ箒神の来臨を必須とする風習もあるそうです。この産神、箒、大蛇の関連性がとても興味深く。今回の創作の柱に据えました。
村一番の幼い娘が箒をこしらえ、村一番の老婆に箒を手渡す。老婆は森へと出発する。森へと分け入った老婆は、その奥深くに祀られし御神木の注連縄に、箒を括る。
箒神すなわち産神によって産まれた新たな生命の隠喩。破られる卵殻と胎盤のようなもの。外界との界面。酸素とふれあう髪。開かれ光を捉える眼球。この世に命が芽吹く。新生。
黒く、罅のような凹凸と皺のような帯状の紋に覆われた表面。白く艶やかな傀儡との対比。蛇ノ目紋の光輪と糸受けから大蛇サマを降霊し、絶対的力によって吊られていることがわかります。両の手をこちらに差し出すその姿は、箒を差し出す幼い娘か、箒を受け取る老婆のイメージか。はたまた次の命を繋ぐ前世の姿か。
掌を見下ろす大きな眼球。その虹彩に生々しさはなく、作り物のような硬質さを感じます。よく見ると大蛇サマの牙も食い込んでいません。ガラス玉のような無機質さを伴ったその瞳には、掌で孵る傀儡の姿が映り込んでおり、誕生のその瞬間をしかと見届けていることが伺えます。
注連縄はかつてから蛇が由来だと考えられています。あちらとこちらの境界を明確に、しかし緩やかに隔てる鳥居。その向こうには、何人たりとも立ち入れぬ無限遠の神聖な領域が広がっています。
傀儡の眼窩に収まったふたつの眼球。その瞳は桔梗色。こちらではないどこかに目配せしています。なにかと目が合っているのかいないのか。そこには何が見えているのか。過去の自分か来世の自分か。ところで、この傀儡の名は?
今作、箒神「顕神の森・新生」は、この世に生を受け、光や空気を初めて感じる人生のはじまり。箒をこしらえた村一番の幼い娘が、村一番の老婆に箒を手渡す。その瞬間までの物語。新たな生命、新たな道、新たな一歩。新生。そして、老婆と箒は森へと向かう。
2022/6/25 ONOFFCYBER展にて展示 (Hifive Gallery)

