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作者あとがき 人形#伍「紫陽花青」

今回も、あとがきを綴ってみます。本作は、展示会での展示のため先行して主催者へトランスファー済みとなるため、本あとがきはUnlockableContentの画像の情報内にリンクを記載する予定です。鶸萌黄のあとがき同様に散文的、駄文的に徒然なるままに綴ってまいります。拙い文章ですが、作品世界をさらに楽しみ味わって頂くことに役立てばと願っております。

人形#伍「紫陽花青」 3840x2160 Full Rendering [unlockable content]
人形#伍「紫陽花青」 3840x2160 Full Rendering [unlockable content]

雨と光

紫陽花青は表情が伺えないほどに前髪が伸びています。うっすらと髪の隙間から目元が伺えますが、その瞼も閉ざされています。ご想像の通り、紫陽花青の眼は光を知りません。外界を光に頼らない方法で知覚しています。雨は、そんな紫陽花青に外界を感じさせてくれる大切な存在です。多くの蛇は視覚が弱く、全身に伝わる音の振動や専用の器官を用いて温度や匂いを察知しながら行動しています。そのため蛇にとっての雨は、都会の騒音のように五月蝿く感じられているだろうと言われているそうです。

雨の予祝

予祝とは、あらかじめ祝福し、豊作や大漁を祈願すること。まだ実現していない実りを祝福することによってその実現を祈願する。紫陽花青は、一年を通じて唄う。 あめあめ ふれふれ もっとふれ しとしと ぴちぴち ちゃぷちゃぷ。梅雨の到来。喜ばしいほどの雨量を願う。紫陽花青は、梅雨を祝い、雨とともに降霊する。全身に雨の不協和音が降り注ぐ。

雨に毒される

雨は穢を洗い落とし、地に染み込む。雨降りしきる灰色の世界に彩りを与える紫陽花。その色合いは土中の状態によって変化すると言われています。雨によって洗い流されたこの世の穢を、その身を賭して美しい色に浄化しているのかもしれません。また、色と同じく花言葉も一様ではないというのが特徴的です。色によって花言葉も変化します。青は酸性の色。国外ではあまり観られない日本的な紫陽花の色です。そして青色での花言葉は「無情」「高慢」「辛抱強い愛情」…。外界を遮断し、ただ一心に梅雨の到来を願い、一年にわたって予祝を上げる紫陽花青に相応しい花言葉です。

雨が上がる

止まない雨はない。かつての人々は、ときに贄すらも厭わず雨を願い、その年の豊作を祈りました。それと同じくらいに予祝を上げ続け待ち望んだ、ひとしきりの雨が上がれば、紫陽花青は役目を終えます。空虚な器と化し大蛇サマの糸は解かれ、地に崩折れることでしょう。止まない雨はない。紫陽花青と紫陽花たちが浄化してくれた透き通った夏が来ます。

雨の表現

口寄せの傀儡たちの中で、あまり観られない雨の描写は、この紫陽花青の特徴的な部分です。打ち付け弾ける雨粒、水面で反響する波紋、髪や髪飾りに弾けた水滴、顎に滴る水滴。これらの水滴は水の反射率を再現し、ランダムに付着させています。また頭上から降りしきる雨粒は、実際に雨を降らし、ぽつぽつと雨の音が聞こえ、湿度を鼻に感じられるカットを最終的にレンダリングしています。雨の表現自体はもはや当たり前の技法ではありますが、作家個人としてはコレクションにこれまでない新しい表現の挑戦でした。本作をお手元にされた際にぜひ味わって頂きたい部分です。

数万粒の雨を頭上から。ここから、胴体との衝突判定、残像が残るような撮影を施し完成。
数万粒の雨を頭上から。ここから、胴体との衝突判定、残像が残るような撮影を施し完成。

2022/6/25 ONOFFCYBER展にて展示 (Hifive Gallery)