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社会的処方は医療を減らすための処方ではない

「つながるケア」と、英国147万人研究が示したこと

Small Medicineでは、これまで社会的処方(social prescribing)について繰り返し取り上げてきました。現在、社会的処方のカテゴリーには7本の記事があります。(Paragraph)

最初に考えてきたのは、社会的処方とは何か、ということでした。

「社会的処方は、日本の地域包括ケアをどう更新するか」では、孤立や社会的つながりそのものを健康の問題として捉え、社会的処方を単に「医療の代わりに地域活動を紹介する仕組み」ではなく、医療、福祉、住宅、交通、文化、芸術、スポーツなどを横断して、人と地域をつなぎ直す仕組みとして考えました[1]。(Paragraph)

次の「社会的処方を『誰がつなぐか』」では、総論から実装へと進みました。英国のlink workerをそのまま日本に移植するのではなく、家庭医や看護職、保健師、地域包括支援センター、そして地域の「受け手」が機能を分かち合う可能性を考えました。そこで強調したのは、「つなぐ」とはパンフレットを渡すことではないということでした。本人がなぜ動けないのかを聴き、ときには最初の一歩に同行し、その後も気にかける。その一連の過程が社会的処方です[2]。(Paragraph)

さらに「農業を、地域のケアとして考える」では、園芸療法やケアファームという具体的な地域資源を取り上げました[3]。そして「医療機関を地域のケア・コモンズに」では、医療機関そのものを、病気を診るだけの場所から、「診る、支える、つなぐ、語る、集う、残す」という地域の接点へ広げる構想を示しました[4]。

こうして振り返ると、Small Medicineでの社会的処方の議論は、

「社会的処方とは何か」から、「誰がつなぐのか」、そして「何につなぐのか」「地域側のケアをどう育てるのか」へと進んできたことが分かります。

そこへ2026年、EClinicalMedicine に英国から大規模な研究が加わりました。

問いは、これまでとは少し違います。

社会的処方を大規模に実装すると、その後の医療利用と医療費は実際にどうなるのか。

これは、社会的処方を「よい理念」から「検証可能な医療政策」へ進めるために、避けて通れない問いです。

社会的処方は、そもそも何を変える仕組みなのか

日本では西岡・近藤が2020年のレビューで、社会的処方を、医療機関などを起点として、健康問題を引き起こしたり治療の妨げになったりする社会的課題を抱える人を、非医療的な社会資源へつなぎ、必要な資源を本人とともにつくっていく活動として整理しています[5]。(J-STAGE)

大切なのは、「薬の代わりに何かを処方する」ことではありません。

貧困、孤立、住居、失業、移動手段、家族関係など、診察室だけでは解決できない問題に気づき、本人と地域とのあいだに新しい経路をつくることです。

ただし、その理念が魅力的であることと、効果が実証されていることは別です。

2017年のBickerdikeらのシステマティックレビューは、社会的処方が英国で広く推進されている一方、当時の評価研究は小規模で方法論的な限界が大きく、その有効性を判断するには根拠が不十分だと指摘しました[6]。(BMJ Open)

2022年のKielyらのシステマティックレビューでも、対象となった8研究、6500人のエビデンスの確実性は低い、または非常に低いと評価されました。健康関連QOLやメンタルヘルスについて一貫した改善は認められず、費用対効果を評価した研究もありませんでした[7]。(PubMed Central (PMC))

つまり社会的処方は、政策と実装がエビデンスより先に走ってきた領域でもあります。

147万人の診療データで何が分かったのか

Wildingらが2026年に報告した今回の研究は、そのエビデンスギャップを埋めようとしたものです[8]。

英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumを用い、2019年7月から2022年4月までに社会的処方へ紹介された168,699人と、紹介されなかった1,302,443人を比較しました。合計すると約147万人です。

年齢や性別などを用いてマッチングし、紹介前の医療利用も考慮したうえで、紹介後6か月と1年の一次・二次医療利用、医療費を評価しています。(リサーチエクスプローラー マンチェスター大学)

結果は、社会的処方を「医療利用を減らす政策」と考えると、少し意外なものでした。

紹介後6か月では、社会的処方に紹介された人の一次・二次医療への接触は、対照群より平均2.252回多くなっていました。平均値に対して約24%の増加です。主にプライマリ・ケアと予定された専門外来の利用増加が関係していました。

1年になると差は大幅に縮小し、総医療接触の差は+0.306回となりました。

GP受診だけを見ると、社会的処方群のほうが年間0.048回少なくなっていました。

医療費は社会的処方群で0.1%未満高く、著者らは臨床的には重要ではない差と評価しています。(リサーチエクスプローラー マンチェスター大学)

「GP受診が減った」と読むべきではない

ここで注意したいのは、0.048回という数字です。

年間0.048回の減少は、単純に換算すれば約21人を1年間フォローしてGP受診が1回少ない程度の差です。

統計学的には有意でも、これをもって、

「社会的処方でGPの診療負担を減らせる」

と主張するには、効果量が小さすぎます。

今回の研究の重要性は、社会的処方によって大幅に医療需要が減ったことではありません。

むしろ、

社会的処方に紹介しても、医療利用はすぐには減らなかった

ことのほうが重要です。

しかも最初の6か月は、むしろ増えています。

医療利用が増えることは、失敗なのか

では、これは社会的処方の失敗なのでしょうか。

そうとも限りません。

孤立していた人がlink workerとの関わりを通じて、自分の健康問題にも目を向けるようになるかもしれません。

これまで放置していた症状について相談するようになるかもしれません。

必要な予防医療や予定診療につながるかもしれません。

実際、研究者らも、初期の予定診療利用の増加について、社会的処方によってhealth-seeking behaviour、つまり必要なケアを求める行動が促進された可能性を挙げています。(リサーチエクスプローラー マンチェスター大学)

ここには、医療政策を評価するときの重要な問題があります。

医療利用は少なければ少ないほどよいのでしょうか。

そうではありません。

不要な受診が減ることには価値があります。

しかし、必要な受診まで減ったのであれば、それは改善ではありません。

反対に、これまで医療や社会資源から切り離されていた人が適切なケアにつながり、その結果として一時的に受診が増えるのであれば、それは望ましい変化かもしれません。

つまり評価すべきなのは、

医療利用の量ではなく、医療利用の適切さ

です。

医療費を減らさない介入には、価値がないのか

この点は、Small Medicineで以前取り上げた予防医療の議論とも重なります。

「予防医療は医療費・社会保障費の削減につながるか?」では、cost-effectiveであることとcost-savingであることは違うと整理しました[9]。

健康を改善する介入には、お金がかかることがあります。

費用が増えても、それ以上に健康やQOLが改善するのであれば、その介入は費用対効果に優れている可能性があります。

したがって、新しい薬や治療には「健康上の利益が費用に見合うか」を問う一方で、社会的処方や予防医療には「医療費まで減らせ」と要求するのであれば、評価基準が非対称になります。(Paragraph)

今回の研究では、社会的処方によって医療費はほぼ変わりませんでした。

しかし、それだけでは社会的処方の価値について、まだ半分しか評価していません。

孤立は減ったのか。

生活の安心は増えたのか。

本人がやりたかったことができるようになったのか。

社会参加は増えたのか。

生活機能やQOLは改善したのか。

そうした患者にとって重要なアウトカムが改善しているのであれば、医療費を減らさなくても介入に価値がある可能性があります。

逆に、そうしたアウトカムも改善せず、追加の人的・社会的資源だけを消費するのであれば、そのとき初めて「本当に投資する価値があるのか」を厳しく問う必要があります。

「医療を減らす」と「低価値医療を減らす」は違う

これは、Small Medicineで考えてきた低価値医療の問題ともつながります。

「日本で優先して減らすべき低価値医療」では、低価値医療を単なる「無駄遣い」の問題とは捉えませんでした[10]。

不要な検査や治療は、患者に害を及ぼすだけでなく、医療者の時間や設備を消費し、本当に必要な患者へ配分すべき資源を奪います。(Paragraph)

だから減らすべきなのは、医療そのものではなく、価値の低い医療です。

その逆も成り立ちます。

必要なケアであれば、医療利用が増えること自体を問題にする必要はありません。

この視点に立つと、社会的処方を「GP受診削減策」として評価すること自体が、少しずれていることが分かります。

目標は受診回数を減らすことではなく、

診察室だけに集中していたケアを、その人にとって適切な場所へ配分し直すこと

なのではないでしょうか。

今回の研究だけで「社会的処方の効果」は分からない

一方で、この研究を社会的処方に好意的に読みすぎることにも注意が必要です。

最大の問題は、RCTではないことです。

社会的処方へ紹介される人は、紹介されない人よりもともと複雑な健康問題、心理社会的問題、孤立や経済的困難などを抱えている可能性があります。

研究ではマッチングや多変量調整を行っていますが、診療データに記録されない社会的ニーズまで完全に調整することはできません。

したがって、紹介後に医療利用が増えたことも、1年後にGP受診がわずかに減ったことも、

「社会的処方が原因で起きた」

と断定することはできません。

さらに重要なのは、研究者が把握できているのが基本的に紹介されたことまでだという点です。

紹介後、本当にlink workerと会ったのか。

何回会ったのか。

何につながったのか。

本人は実際に参加したのか。

途中で離脱したのか。

地域資源側が十分に機能したのか。

こうしたuptake、fidelity、completionは十分に分かっていません。著者ら自身も、社会的処方のデータシステムと電子診療録を統合し、これらを評価する必要性を指摘しています。(リサーチエクスプローラー マンチェスター大学)

これは、Small Medicineの「誰がつなぐか」で考えた問題そのものです。

紹介したことと、つながったことは違います。

社会的処方の「有効成分」は何なのか

Huskらのrealist reviewは、社会的処方を単一の介入として扱う難しさを指摘しています[11]。

薬なら、投与された成分と用量をある程度定義できます。

しかし社会的処方では、紹介先も違えば、本人が抱える問題も違います。link workerとの関係性も、地域資源の質も、交通手段も、地域文化も違います。

つまり「social prescribing」という一つの名前の下で、実際にはかなり異なる介入が行われています。(PubMed)

そして、その有効成分は「地域活動に紹介したこと」だけではない可能性があります。

2026年に発表された社会的処方利用者40人への質的研究では、参加者が意味のある変化として語ったものには、安全感、信頼の回復、生きる目的、危機や悪化の回避などが含まれていました。また、link workerが単に情報を提供するのではなく、参加の最初の段階に伴走する関係的な働きが重要であったことが報告されています[12]。(DOI)

つまり、社会的処方の価値を測ろうとするとき、

「紹介件数」

「GP受診回数」

だけを数えていては、かなりの部分を取りこぼす可能性があります。

Small Medicineが考えてきたことに戻る

ここで、Small Medicineのこれまでの記事に戻ります。

「社会的処方は、日本の地域包括ケアをどう更新するか」では、英国モデルをそのまま輸入するのではなく、日本にはすでに地域包括ケアという基盤があり、そこに社会的処方という視点を加えることに意味があると考えました[1]。

「誰がつなぐか」では、link workerという新しい職種を置くだけではなく、家庭医、看護職、保健師、地域包括支援センターなど、すでに地域にいる人たちの機能をどう結ぶかを考えました[2]。

「農業を、地域のケアとして考える」では、つなぐ先となる地域資源について考えました[3]。

そして「医療機関を地域のケア・コモンズに」では、医療機関自身を、地域の人が相談し、つながり、集うためのハブとして捉え直しました[4]。

今回のWildingらの研究は、この流れを否定するものではありません。

むしろ、次の段階へ進める研究だと思います。

社会的処方という理念には魅力がある。

つなぐ仕組みも考えられる。

地域資源にも可能性がある。

では、

実際に大規模に動かしたとき、人の生活と医療システムには何が起きるのか。

そこを測り始めたのが今回の研究です。

社会的処方を「医療費削減策」にしない

英国NHSにとって、GPの負担軽減や医療需要の抑制は大きな政策課題です。

したがって社会的処方にも、医療利用やコストを減らすことが期待されるのは理解できます。

しかし、その期待を前面に出しすぎると、社会的処方は別のものへ変質します。

「医師のところへ来ないようにするために地域へ送る」

という仕組みになってしまうからです。

社会的問題を抱える人ほど、むしろ医療へのアクセスが必要なことがあります。

貧困、孤立、住宅問題、精神的不調、慢性疾患は互いに重なります。

そうした人を医療から遠ざけるのではなく、

必要な医療にはつなぎながら、医療だけでは解決できない部分を地域で支える。

社会的処方の役割は、そこにあるはずです。

だから今回、短期的に医療利用が増えたことは興味深いのです。

それが適切な医療へのアクセス増加だったのか、それとも単なる利用増加だったのかは、まだ分かりません。

しかし少なくとも、

「社会的処方→受診減少→医療費削減」

という単純な図式は、この大規模研究によって支持されませんでした。

医療を小さくして、ケアを大きくする

Small Medicineという名前で考えてきた「small」は、医療サービスを一律に小さくするという意味ではありません。

不要な医療は減らす。

必要な医療は守る。

医療でなくても支えられることは、地域へつなぐ。

そして、つなぐ先がなければ、地域の中に小さなケアの場を育てていく。

医療がすべてを抱え込まないことで、医療を本当に必要なところへ集中させる。

その一方で、ケアそのものはむしろ豊かにする。

今回の研究から見えてくる社会的処方は、まさにそのようなものです。

社会的処方は、医療を減らすための処方ではありません。

医療と地域のあいだに、新しいケアの経路をつくるための処方です。

そして次に必要なのは、その経路が存在することを数えるだけではありません。

本当に人がそこを通れたのか。

通った先で生活が変わったのか。

孤立が減ったのか。

本人にとって大切なものを取り戻せたのか。

必要な医療には適切につながれたのか。

地域の受け皿は持続できたのか。

そのために、どれだけの社会的コストを使ったのか。

そこまで測って初めて、社会的処方の本当の価値が見えてきます。

今回の147万人研究は、その答えではありません。

しかし、社会的処方を「よさそうな活動」から、検証しながら育てる地域のケアシステムへ進めるための、重要な一歩だと思います。

参考文献

  1. Small Medicine. 「社会的処方は、日本の地域包括ケアをどう更新するか――世界の潮流と日本のプライマリ・ケアへの期待」2026. Small Medicine掲載記事 (Paragraph)

  2. Small Medicine. 「社会的処方を『誰がつなぐか』――現場で動かすための実装ノート:リンクワーカー不在の日本で、家庭医・看護・地域資源をどう結ぶか」2026. Small Medicine掲載記事 (Paragraph)

  3. Small Medicine. 「農業を、地域のケアとして考える――園芸療法とケアファームのエビデンス」2026. Small Medicine掲載記事

  4. Small Medicine. 「医療機関を地域のケア・コモンズに」2026. Small Medicine掲載記事 (Paragraph)

  5. 西岡大輔, 近藤尚己. 社会的処方の事例と効果に関する文献レビュー――日本における患者の社会的課題への対応方法の可能性と課題. 医療と社会. 2020;29(4):527-544. doi:10.4091/iken.2020.002. (J-STAGE)

  6. Bickerdike L, Booth A, Wilson PM, Farley K, Wright K. Social prescribing: less rhetoric and more reality. A systematic review of the evidence. BMJ Open. 2017;7:e013384. doi:10.1136/bmjopen-2016-013384. (BMJ Open)

  7. Kiely B, Croke A, O'Shea M, et al. Effect of social prescribing link workers on health outcomes and costs for adults in primary care and community settings: a systematic review. BMJ Open. 2022;12:e062951. doi:10.1136/bmjopen-2022-062951. (BMJ Open)

  8. Wilding A, Munford L, Sutton M, et al. Changes in healthcare use and cost associated with referrals to social prescribing link workers in England: a matched case-control cohort study. EClinicalMedicine. 2026. 原著全文 (リサーチエクスプローラー マンチェスター大学)

  9. Small Medicine. 「予防医療は医療費・社会保障費の削減につながるか?」 Small Medicine掲載記事 (Paragraph)

  10. Small Medicine. 「日本で優先して減らすべき低価値医療――頻度・害・費用・測定可能性・改善可能性から考える13の候補」2026. Small Medicine掲載記事 (Paragraph)

  11. Husk K, Blockley K, Lovell R, et al. What approaches to social prescribing work, for whom, and in what circumstances? A realist review. Health Soc Care Community. 2020;28(2):309-324. doi:10.1111/hsc.12839. (PubMed)

  12. Dean R. Measuring the iceberg: complex lives, invisible metrics, and lived experience in social prescribing. Front Public Health. 2026;14:1800306. doi:10.3389/fpubh.2026.1800306. (DOI)


※ 本記事ではAIを情報収集・編集に使用しています。掲載する研究データ、臨床的解釈は医師が確認し、最終編集しています。

編集 bycomet|Small Medicine