スウェーデンは福祉国家として世界的に知られ、医療分野でも高い評価を受けています。特に高齢者の終末期医療においては、患者の尊厳を重視し、苦痛を軽減するためのケアを行う体制が整っています。本記事では、スウェーデンにおける終末期医療の現状、提供体制、そして直面する課題について、最新の学術的エビデンスを踏まえながら詳しく解説します。
スウェーデンでは、医療・介護サービスが税金を財源とする公的な制度によって運営されており、国民全員が平等にアクセスできます(OECD, 2020)。終末期医療に関しても例外ではなく、患者の経済的負担を最小限に抑え、医療の質を維持することを目標にしています(Anell et al., 2012)。
終末期医療は主に以下の法律や政策で位置づけられています。
医療保健サービス法(1982年制定・改正あり)
「必要性の高い患者を優先し、人格と自己決定を尊重した質の高い医療サービスを提供する」ことを定めています(Socialstyrelsen, 2015)。
社会サービス法(1980年制定)
高齢者が自宅や施設など自らの生活の場で必要なケアを受ける権利を保障しています。これにより、在宅ケアや施設での看取りケアが法律上整備されています(Szebehely & Trydegård, 2012)。
患者法(2015年施行)
医療提供時における患者の尊厳、自己決定、情報提供、インフォームド・コンセントを重視し、終末期ケアでも患者本人の意思が優先されます(Socialstyrelsen, 2015)。
スウェーデンでは安楽死(積極的生命終了)は違法である一方、延命治療の差し控え(消極的安楽死)は法的に認められています。こうした背景に基づき、スウェーデンでは終末期ケアとして「苦痛緩和と自然な看取り」を推進しています(Lindblad et al., 2010)。
スウェーデンでは、終末期医療を病院、ナーシングホーム(介護施設)、在宅で提供しています。近年、特に病院以外での看取りが増えています(Socialstyrelsen, 2019)。
各地域の公立病院に緩和ケア病棟が設置され、がん末期など高度な症状緩和が必要な患者が対象です(Socialstyrelsen, 2019)。しかし、病床数が限られ、多くの患者が一般病棟でケアを受けています。
ナーシングホームでは、看護師が常駐し、地域医師の訪問診療によって医療が提供されています。多くの高齢者が施設で看取られており、急性期病院の入院期間短縮に伴い、施設での高度なケア提供が増えています(Szebehely & Trydegård, 2012)。
在宅緩和ケアは、在宅で専門チームによる24時間体制の症状緩和ケアを提供します。地域のプライマリケアと連携し、自宅で最期を迎えたい患者を支援しています(Beck et al., 2012)。しかし、在宅看取りは依然として少数であり、全死亡者の約20%程度にとどまっています(Socialstyrelsen, 2019)。
スウェーデンの終末期医療は制度的に充実している一方で、次のような課題を抱えています。
高齢化が進むにつれて緩和ケアのニーズが急増していますが、専門医・看護師が不足しています。特に地方では人材が不足し、一般の介護職員や地域の家庭医が終末期ケアを行っていますが、専門的な緩和ケアの教育が十分に行き届いていない現状があります(OECD, 2020)。
スウェーデンは公費負担のため患者負担は軽いものの、高齢化による費用の増加が財政的な問題になっています。特に病院中心の財政配分が続いているため、本来コスト効率の良い在宅ケアや施設ケアへの資源投入が進まず、非効率な資源配分が生じています(OECD, 2020)。
地域によって緩和ケアサービスの整備状況に大きな差があり、ストックホルムや南部では比較的充実していますが、地方では専門サービスの不足が顕著です。結果として、終末期ケアの質にも大きな差が出ています(Beck et al., 2012)。
患者の自己決定権は制度上保証されていますが、現実には認知症や高齢者の意思決定が不十分です。患者本人と医師との終末期のケアに関する話し合いが、半数以下の患者でしか実施されていないというデータもあります(Brinkman-Stoppelenburg et al., 2014)。早期からのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及が必要です。
緩和ケアの質は地域・施設間で大きくばらついており、十分な痛みの管理や不必要な積極的治療の抑制などの課題があります(OECD, 2020)。全国的な質の標準化と、専門チームから一般医療提供者への緩和ケア教育の浸透が求められています。
スウェーデンは高齢者終末期医療において、制度の整備、ケアの質向上に積極的に取り組んできました。しかし、制度が充実していても課題は存在し、地域差や財政問題、人材不足、意思決定支援などの課題に対して不断の努力が求められます。日本でも高齢化が進む中、スウェーデンの経験を参考に、終末期ケアの質向上を目指した取り組みが必要です。
Anell A et al. (2012). "Sweden: Health system review." Health Systems in Transition, 14(5):1-159.
Beck I et al. (2012). "End-of-life care in Swedish nursing homes: A survey of residents’ needs and care routines." Scandinavian Journal of Caring Sciences, 26(1):110-120.
Brinkman-Stoppelenburg A et al. (2014). "The effects of advance care planning on end-of-life care." Palliative Medicine, 28(8):1000-1025.
Lindblad A et al. (2010). "End-of-life decisions in Swedish healthcare." Palliative Medicine, 24(2):154-160.
OECD. (2020). Health at a Glance: Europe 2020.
Socialstyrelsen. (2015). Patient Act (Patientlagen 2014:821).
Socialstyrelsen. (2019). Vård i livets slutskede (End-of-life care report).
Szebehely M & Trydegård GB. (2012). "Home care in Sweden: a universal model in transition." Health & Social Care in the Community, 20(3):300-309.
※この記事はAI・医師共創型コンテンツ(APCC)です。
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Dr. bycomet
医師。2007年よりブログ・ツイッターでの情報発信を開始。2015年「地域医療ジャーナル」(有料会員数10,886人/月)を創刊、2018年オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(登録会員数40人)を設立。2022年オンラインプラットフォーム「小さな医療」(登録会員数120人)を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と情報提供を続けています。
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