スポーツや日常生活で誰もが経験し得る捻挫や筋肉痛──「とにかく早く痛みを抑えたい」とき、まず思い浮かぶのは飲み薬のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)かもしれません。しかし、胃腸障害や腎機能への影響、さらには心血管リスクを懸念して服用をためらう方も少なくありません。
そんな、「飲む痛み止めのジレンマ」を解決する選択肢として近年注目されているのが、皮膚に直接塗布して局所に有効成分を届ける外用NSAIDsです。
では、「実際どの程度効くのか」「安全性は本当に高いのか」──こうした疑問にエビデンスで答えるため、コクラン共同計画が61件・8,000例以上のランダム化比較試験を統合したシステマティックレビュー&メタアナリシスを最新版(2015年更新)として発表しました。
Topical NSAIDs for acute musculoskeletal pain in adults (Review)
成人(16歳以上)の急性筋骨格系疼痛(捻挫・挫傷・筋/腱の過使用損傷など)患者
二重盲検ランダム化比較試験計 61件、8,386 例を統合
外用NSAIDs(ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、インドメタシン、ベンジダミン等)のゲル・クリーム・スプレー・パッチ等
代表例
ジクロフェナク 1% Emulgel®️(1日3~4回塗布)
イブプロフェン 5% ゲル
ケトプロフェン 2.5% ゲル
有効成分を含まないプラセボ外用剤(同一キャリア、同一塗布方法)
一部試験では経口NSAIDsや同一薬剤の別製剤との比較も実施
臨床的成功:開始7日前後で「疼痛50%以上軽減」「患者グローバル評価 良好以上」等
安全性:局所皮膚有害事象・全身性有害事象・有害事象による中止
ランダム化・二重盲検・プラセボ(又は能動)対照試験を対象としたシステマティックレビュー/メタアナリシス(コクランレビュー)
ジクロフェナク(10試験 n = 2,050)
臨床的成功 RR 1.60 (95% CI 1.49–1.72)
Emulgel®️に限ると RR 3.84 (2.68–5.50),NNT 1.8 (1.5–2.1)
イブプロフェン(5試験 n = 436)
臨床的成功 RR 1.64 (1.33–2.01)
ゲル製剤 RR 2.66 (1.69–4.21),NNT 3.9 (2.7–6.7)
ケトプロフェン(7試験 n = 683)
臨床的成功 RR 1.56 (1.37–1.77)
ゲル製剤 RR 2.19 (1.74–2.75),NNT 2.5 (2.0–3.4)
総合安全性(外用NSAIDs全体 42試験 n = 6,740)
局所有害事象 RR 0.98 (0.80–1.20) ― プラセボと差なし
全身性有害事象 RR 0.96 (0.73–1.30) ― 差なし
Derry S, Moore RA, Gaskell H, McIntyre M, Wiffen PJ. Topical NSAIDs for acute musculoskeletal pain in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(2):CD007402. doi:10.1002/14651858.CD007402.pub4.
局所投与の利点:外用NSAIDsは皮膚から患部に浸透し、血中濃度は経口投与の5%未満と低いため全身性有害事象を最小化できる
世界的な普及状況の差:西欧ではOTC薬として長年使用される一方、米国では2010年代半ばまで臨床現場でほぼ未知の存在だった
開発の背景:経口NSAIDsが消化管・腎・心血管系リスクを伴うため、局所使用で安全性を高めるアプローチが求められた
メカニズム:皮膚透過後にCOX阻害→プロスタグランジン産生抑制→炎症・痛覚シグナル低減
製剤技術の進歩:ゲル・プラスターなど浸透促進剤を含む新しい製剤が効果を左右することが示唆され、フォーミュレーション別評価が必要となった
研究ニーズ:2010年レビュー以降に特にジクロフェナクで質の高い試験が増加し、薬剤×製剤別の臨床意義を判断するためアップデートが行われた
臨床および統計的不均質性:薬剤・製剤・損傷部位・評価スケールが多様でI²が高い比較が存在
小規模試験が多い:27試験で治療群あたり50例未満とサンプルサイズバイアスの懸念
ベースライン痛が十分でない/未報告:痛みが軽い対象では介入効果が過小・過大に振れる可能性
希少な重篤有害事象の検出力不足:光線過敏症(ケトプロフェン)など重篤例を評価するには症例数が不足
出版バイアス:未公開だが登録済みの完了試験が≥5900例分あり、陰性結果が隠れている恐れ
直接比較の欠如:外用NSAIDs同士・経口NSAIDsとのヘッドツーヘッド試験が少なく、相対効果を定量できない
追跡期間が短い:多くが7–14日評価であり、長期安全性・再発抑制効果は不明
Dr. bycomet
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