がん治療薬の費用対効果分析では、有害事象コストが一貫して過小評価されており、費用対効果の結論が47%で変更される可能性があることが明らかとなりました。
【音声解説】
Adverse Event Costs and Cost-Effectiveness Analyses of Anticancer Drugs: A Systematic Review
米国の保険請求データに基づく11件の研究(34,022人の患者)および、同様の治療・適応における米国支払者視点の費用対効果分析(CEA)102件
がん薬に関連する有害事象(AE)コストのCEAにおける推定値(モデリング・仮定による計算)
保険請求データ(claims-based studies)に基づく、実臨床における実際のAE関連コスト
AEコストが総医療費に占める割合の差
AEコストの絶対的金額の差(1人あたり)
インクリメンタル費用効果比(ICER)の変化と費用対効果結論の変動($100,000または$150,000/QALYの閾値に基づく)
系統的レビュー
CEAにおけるAEコストは、実際の保険請求データに基づくコストよりも一貫して過小評価されていた。
AEコストの総医療費に占める割合の中央値差は9.73ポイントであり、CEAと実際の間に統計的に有意な差があった(IQR 5.15%-27.22%、P = .002)。
AEコストの絶対的な差は1人あたり$17,201で、中央値としてCEAの推定値より実際のコストが高かった(IQR $13,365–$48,970、P = .03)。
AEコストを実際の金額に置き換えた結果、ICERは中央値で$42,656/QALY変化し、17件中8件(47.1%)で費用対効果の結論が変化した。
CEAのうち40.2%はAEの種類を報告しておらず、77.5%はGrade 3以上のAEのみを考慮していた。
85.3%は進行後のAEコストを考慮せず、82.8%はAEが最初の治療サイクルでのみ発生すると仮定していた。
87.3%のCEAは用量調整の影響を考慮せず、94.1%はそれが治療効果に与える影響も無視していた。
Zhao M, Shao T, Yin Y, Fang H, Shao H, Tang W. Adverse Event Costs and Cost-Effectiveness Analyses of Anticancer Drugs: A Systematic Review. JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2512455. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.12455
がんは世界で年間約1,000万人が死亡する第二位の死因(WHO 2020年)
がん治療に伴う有害事象(AE)は、QOL低下や治療中断の原因となる
AEの管理には、薬剤、入院、検査などの追加医療資源が必要であり、医療費が増加
費用対効果分析(CEA)は、リソースの限られた医療制度において治療の経済的価値を評価するために重要
しかし、AEコストの定量化には複数の課題があり、正確でない場合はCEAの結論に大きな影響を与える可能性
過去に、AEの種類(全原因 vs 治療関連)、重症度(グレード)、発生頻度、治療中断の有無などが一貫して取り扱われていない
実臨床(保険請求データ)とCEAモデル上のAEコストが乖離している可能性があるが、系統的に評価された研究はこれまでなかった
保険請求データにはコーディングエラーや臨床的背景の欠如がある(例:診断やAEの詳細な臨床状況がわからない)。
CEA研究と請求データの対象期間や年のずれによりバイアスの可能性。
使用したデータは米国限定であり、他国への一般化は困難。
対象としたがん種が一部の進行がんに限られている。
AEの発生率やコストの比較において、個別患者背景を調整できなかった。
すべてのCEA研究に比較対象となる請求データが存在しなかった。
CEAにおけるAEコストは一貫して過小評価されており、これは以下の理由による可能性がある:
Grade 1–2の軽度AEや低頻度AEが除外されている
治療関連AEのみを対象とし、全因性AEを無視
進行後のAEコストや用量調整の影響が考慮されていない
RCTは健康な患者が多く、現実のAE発生率より低く見積もられる傾向がある
単純化のためにAEが最初の1サイクルのみで発生するという仮定が用いられがちだが、現実とは乖離
用量中断や減量が治療コストと効果に影響するにもかかわらず、ほとんどのCEAが考慮していない
AEコストのばらつきが大きく、標準化された算出方法が求められる
将来は、より詳細な臨床データと長期電子医療記録を活用したモデル化が望ましい
政策的には、ICER評価にAEコストの不確実性を織り込むことが重要
Dr. bycomet