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#1 RetroPGFの紹介: ブロックチェーンと公共財

はじめに

今回と次回の2回にわたり、Optimismの資金提供を実施するプログラムであるRetroPGF (= Retroactive Public Goods Funding)について紹介していきます。RetroPGFは、Optimismに対して影響を与えたエンティティを評価し、資金提供をするプログラムです。

The Optimistic Vision

EthereumのLayer 2プロジェクトであるOptimismは、The Optimistic Visionを掲げています。これは、「公共財は利益を生むことができない」という神話を払拭することを目指し、「影響力=利益」という原則に従い、サイバースペースのための新しいガバナンスモデルを構築することを目指すことが宣言されています。

なぜ、公共財は利益を生むことができないのでしょうか。その理由は、そのビジネスモデルにあります。例えばスタートアップでは、エクイティを通じてファンディングすることもできますし、exitすることもできます。それに対し、公共財プロジェクトにはそのような仕組みは備わっていません。

このように、利益を生むことができない公共財プロジェクトに対して資金提供し、持続可能性を持たせることを目的としたプログラムがRetroPGFです。まず今回の記事では、公共財とはどんな性質のものなのかを説明していきます。

公共財とは

経済学において、公共財とは排除性も競合性もない財を指します。もっと噛み砕いて表現すると、次のような特徴を持つ財です。

  • 誰であってもそれを利用できること

  • 誰かが利用することによって、別の人がそれを利用できなくなることがないこと

身近な例として、生活道路について考えてみましょう。通常、生活道路を歩いたり、車で通行したりする際には誰でも利用できます。しかし、道路を利用する人が増加すると渋滞を引き起こしてしまい、使いにくくなってしまうので、ある程度の競合性は持っているかもしれません。

さらに、理想的な公共財として、重力があります。ISS含め地球上や地球付近で生活している人は、みな重力の影響を受けます。もちろん、重力を利用する上で誰の許可も必要となりませんし、誰かに重力が働いたことによって、他の人に重力が働かなくなることはないので、排除性も競合性もないといえるでしょう。

しかしながら、身の回りにある公共財は、生活する上で重要であるにも関わらず、通常は人間の手によって維持管理する仕組みが必要となります。もしあなたが国境線に囲まれた領域に暮らしているなら、国防という公共財の恩恵を受けていますが、国防を維持する人には物資なり報酬なりが必要です。このように、公共財を維持管理する主体に必要なものを供給する仕組みが税であり、私たちはこれらを維持するために徴税されます。

公共財であり、トラストレスである

パーミッションレスなブロックチェーンは公共財の性質を持っていると言えます。ここでは、BitcoinやEthereumのようなパーミッションレスなブロックチェーンについて議論していきます。

ブロックチェーンに参加するためにはノードをセットアップする必要がありますが、このようなノードは誰の許可も必要とせずにセットアップできます。また、ブロックチェーンを利用するためには、ネットワークに利用料を支払えば誰でも利用することができます。また、スケーリングによって、競合性も徐々になくなりつつあります。

このような性質を持っているにもかかわらず、私たちの多くはブロックチェーンが意図したとおりに動作することに疑問を持つことがありません。不思議だと思いませんか。言い換えると、なぜブロックチェーンは、第三者が何かしらの行動を起こすことを期待せずに動作するという性質を持つ、「トラストレス」なのでしょうか。ブロックチェーンの特徴を理解するいい機会なので、少し脱線して掘り下げてみましょう。

その鍵は、「ノードが受け取る情報は、プロトコルに沿ったものであるかチェックされている」です。ちょうど旅客機の機長/副機長がチェックシートを実施するように、ノードもチェックシートを実施するのです。ノードは他のノードがプロトコルの仕様通りに動作していることを検証する必要があります。まさに、Don’t trust, verifyの精神であると言えますね。

例えば、マスタリングビットコインによれば、Bitcoinネットワークは他のノードからトランザクションを受け取ったときに18ものチェック項目を実施するとしています。一部を抜粋すると以下のとおりです。

  • トランザクションの構文とデータ構造は正しいか

  • インプットとアウトプットのいずれも空ではないか

  • nLocktimeがINT_MAXに等しいか、またはnLocktimeとnSequenceの値がMedianTimePastに従って満たされているか

  • 各インプットに対して、もしこのインプットが参照しているアウトプットをトランザクションプールの他のトランザクションも参照していた場合、このトランザクションを拒否する

  • もしトランザクション手数料が少なすぎて、空ブロックに入れることができない場合は拒否する

このようなチェックを実施することによって、Bitcoinネットワーク内に無効なトランザクションであふれることを防ぎ、ネットワークの健全性が担保されます。なぜ超多数のノードがプロトコルに沿った動作をするかというと、暗号経済学的なインセンティブがノード参加者に働くためです。これは、トランザクション以外のデータであっても、ひいては他のブロックチェーンであっても言えることです。

また、ブロックチェーンは誰でも参加できるため、他にもいくつかのルールが導入されています。例えば、コンセンサスアルゴリズムです。Bitcoinにおいては、ナカモトコンセンサスによって、一番長いチェーンが正統なチェーンであると判断されます。一番長いチェーンは、PoWによって計算量が最も注ぎ込まれたチェーンであることから、そのチェーンを正統であると判断しているのでした。よく間違われますが、PoWはコンセンサスアルゴリズムを表現する単語ではありません。

このように、様々なメカニズムやコンセンサスの導入によって、ブロックチェーンは公共財であるにもかかわらず、トラストレスな性質を持っているのです。

ところで、Optimismは公共財ですか?

Optimismとして知られていたチェーンは、OP Mainnetという名前に変更されました。この名前の変更は、Optimismが掲げるSuperChainという構想に最初に準拠したチェーンであるという意味が込められています。SuperChainについては、また機会がありましたらブログ記事で解説しましょう。

OP Mainnetは誰でも使うことができますし、ノードも誰でも建てることができます。インフラに関してもっと言えば、シーケンサは分散化されておらず、誰でも実行できるわけではありません。そのため、About Optimismにあるように、シーケンサが分散化されるまでは、シーケンサの利益はすべて公共財に寄付されます。また、Optimismのマイルストーンとして、シーケンサの分散化が予定されています。

と、ここまで「OP Mainnetは公共財であるか」という視点で話をしてきましたが、さらに重要なことは、Optimismを取り巻くエコシステムには多くの公共財プロジェクトが存在するという点です。

最近のRetroPGFでは、Infrastructure、Education、Tooling & Utilitiesという3つのカテゴリでプロジェクトが分類されました。EthereumやOptimismを支えるインフラストラクチャーや、dAppsという形で表現されるツールが評価される理由は想像しやすいですが、教育のカテゴリが存在することに意外だと感じた人もいるのではないでしょうか。教育は社会的包摂を促進するための最も強力な手段の一つとして知られており、人々がOptimismにアクセスすることを助けます。これは、Optimismのエコシステム拡大を後押しするものであり、評価されるべきものです。

このように、教育のような社会的なものも含めれば、Optimismを支える公共財プロジェクトは相当数存在することになります。これらプロジェクトに持続可能性を与える試みがRetroPGFであると表現することもできるでしょう。この試みによって、Optimismは自らのエコシステムの拡大を図ります。

さいごに

ブロックチェーンにおいては、多くのプロジェクトが公共財としてその価値を提供しつつ、その持続可能性に課題を抱えています。税金のような徴収メカニズムが存在しないこの領域で、どのようにして資金を確保し、公共財として維持していくかは重要な問題です。

次回のブログでは、RetroPGFについてもっと掘り下げていく予定です。なぜRetroactive(遡及的)にプロジェクトを評価する必要があるのでしょうか。なぜ、わざわざめんどくさそうな、人間による投票でプロジェクトを評価する必要があるのでしょうか。よく考えると、不思議な要素はたくさんありますね。

参考文献

※Optimismの公式リソースに関しては、著者の記載を省略しています。