医療アシスタント(MA)の役割を拡張しチームケアを強化した「Primary Care 2.0」は、チームの発展を促進し、バーンアウト(燃え尽き症候群)軽減に寄与する可能性がありますが、維持していくには制度的支援が必要です。
Primary Care 2.0: A Prospective Evaluation of a Novel Model of Advanced Team Care With Expanded Medical Assistant Support
スタンフォード大学医学部の5つのプライマリ・ケアクリニックに勤務するスタッフおよび臨床医188名(介入群44名、対照群144名)
Primary Care 2.0 モデル(MA:医師比を2:1に設定し、MAによる診療記録、健康コーチング、ケア調整などの拡張された役割を含む)
プライマリ・ケアにおけるチームベースの診療の強化と医療従事者のバーンアウト対策を目的とした革新的な診療体制モデルです。特に、医療アシスタント(MA: Medical Assistant) の役割拡張と、多職種連携(interprofessional team) の導入が中心的な特徴です。
従来のプライマリ・ケアモデルでは、バーンアウト(燃え尽き症候群)が深刻な課題に。
「質の向上」「コストの抑制」「患者体験の改善」「医療従事者の満足度向上」の「クワドラプル・エイム(Quadruple Aim)」を目指す。
スタンフォード大学が中心となって2016年に試験導入。
項目 | 説明 |
---|---|
MA:医師比 2:1 | 通常より多くのMAを配置し、医師(またはAPC)1名に対しMA2名をサポートにつける |
MAの役割拡張 | 以下を含む多機能化: |
拡張ケアチーム | 以下の職種を常駐: |
項目 | 説明 |
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ケア調整時間の確保 | チーム全体で患者ケアを調整する時間を意図的に設ける |
テレヘルス活用 | オンライン診療やフォローアップの導入 |
医療コーチング | 患者の自己管理支援(motivational interviewing等) |
チーム連携の構造化 | 日々の「ハドル(朝会議)」、「症例カンファレンス」、QI(品質改善)活動など |
MAは個別・集団でのトレーニングを受け、診療記録の代行スキル、コーチング技法などを習得。
チームは固定され、スタッフ交代時もできる限り同一メンバーで継続。
毎月、医師とMAが面談し、業務改善のフィードバックを行う。
チーム発展(TDMスコア)が有意に向上(24か月で+10ポイント以上)。
バーンアウト軽減は一時的に改善傾向が見られたが、MA比率が下がったタイミングで後退。
費用(1回あたりの診療人件費)は他クリニックと比べて低下。
医療の質(HEDIS指標)や患者満足度は安定的に維持された。
意義:より高次のチームワークと役割明確化により、質と満足度を維持しつつ労働負荷の軽減に寄与。
課題:継続的な制度的支援、特にMA比率の維持が不可欠。短期的な導入では不十分で、「文化の変革」には複数年の取り組みが必要。
通常運営の4つの対照クリニック(MAの比率や役割の拡張なし)
主要アウトカムはチーム発展(Team Development Measure: TDM)スコアおよびウェルネス(特にバーンアウト)スコア
医療などの臨床現場におけるチームの発展度(成熟度)を測定するための評価指標です。主にチームワークの質や機能性を客観的に把握するために使用されます。
開発元:米国退役軍人省(VA)などの研究者によって臨床設定向けに開発
構成:31項目の質問で構成され、次の4つの領域(ドメイン)を評価します:
チームの一体感(cohesion)
コミュニケーション(communication)
役割と目標の明確さ(roles and goals)
チーム重視の姿勢(team primacy)
スコア範囲:0〜100点(数値が高いほどチームの発展段階が進んでいることを示す)
スコア範囲 | 発展段階の例 |
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~50 | 初期段階(役割や目標が曖昧、連携不足) |
51〜60 | 中間段階(コミュニケーションや役割分担が明確化) |
61〜70 | 高度段階(チーム目標に向けた協働が進む) |
71〜以上 | 完全に機能するチーム(高い信頼と相互支援) |
この論文では、TDMを使って、Primary Care 2.0モデルが導入されたクリニックと、従来型クリニックのチーム発展度を比較評価しました。その結果、Primary Care 2.0導入クリニックでは、導入から24か月後までにTDMスコアが有意に上昇し、チームワークが確実に進展していることが示されました。
副次アウトカムは医療費、ケアの質、患者満足度
準実験的前後比較研究(差分の差分法を用いた前向き評価)
チーム発展スコア(TDM)は介入群でベースラインからすべての時点で有意に改善(+12.2, +8.5, +10.1ポイント;P<.01)
バーンアウトスコアには統計的に有意な改善はなかったが、9か月・15か月時点では一時的な改善傾向が見られた(−0.2, −0.3ポイント)
チーム発展スコアの上昇はバーンアウトの低下と有意に関連(10ポイントのTDM上昇でバーンアウトスコア−0.25, P<.0001)
質指標(糖尿病関連検査や薬剤管理など)や患者満足度、医療費は介入前後で対照群と同等または良好に維持
時点 | TDM差分 (介入群 vs 対照群) | バーンアウト差分 | 意義のある他のウェルネス変化 |
---|---|---|---|
9か月後 | +12.2 (P<.001) | −0.2 (P=.48) | コントロール感 +0.5 (P=.05) |
15か月後 | +8.5 (P=.006) | −0.3 (P=.26) | なし |
24か月後 | +10.1 (P=.001) | +0.1 (P=.79) | なし |
Shaw JG, Winget M, Brown-Johnson C, et al. Primary Care 2.0: A Prospective Evaluation of a Novel Model of Advanced Team Care With Expanded Medical Assistant Support. Ann Fam Med. 2021;19(5):411-418. doi:10.1370/afm.2714
医療現場では、医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)が深刻な問題となっており、医師離職やコスト増加につながる。
「クワドラプル・エイム(Quadruple Aim)」—質の向上、コスト抑制、患者経験の向上、医療従事者の満足度向上—が医療改革の中心に。
プライマリ・ケアでは、「Patient-Centered Medical Home(PCMH)」が代表的なチームケアモデルとして普及したが、長期的な成果はまちまち。
第2世代の取り組みとして、Bellin Health、コロラド大学、Cleveland Clinic、スタンフォードなどが、MAの役割拡張と多職種連携を取り入れたモデルを試行。
これまでの取り組みは成功例もあるが、厳密な評価研究は少ない。
本研究は、スタンフォードの**「Primary Care 2.0」モデル導入によるチーム発展とバーンアウト軽減への効果**を、前向き準実験デザインで評価。
時間(time):4時点(0, 9, 15, 24ヶ月)における測定
クリニック(site):介入群と比較群の違い
個人ごとの繰り返し測定(random intercept):混合効果モデルで考慮
チーム発展スコア(TDM):バーンアウトに対する独立変数としても利用
職員の勤続年数・チームの成熟度(新設クリニックだったため交絡の可能性)
個人の性格特性やストレス耐性
他の全社的なウェルネス施策の影響
MAの離職率や採用状況の変動
勤務体制や労働時間(例:フルタイム vs パート)
単一施設での実施:外部妥当性に限界あり。
ウェルネス指標(Professional Fulfillment Index)は非医師職に対して検証不十分。
P値のみで有意性を判断しており、多重検定調整(Bonferroni等)は行っていない。
介入施設は新規開設であり、スタッフの勤務歴が短く、比較施設と同等とは言いがたい。
制度変更(MA比率低下)が途中で介入の一貫性に影響。
介入以外にも同時期に院内全体でウェルネス向上の動きがあったため、純粋な効果の推定が困難。