「疾患進行を遅らせた」「進行リスクが38%減った」「効果は半年分の差」
Donanemabの臨床試験(TRAILBLAZER-ALZ 2)の論文には、こうした“前向きな”言葉が並んでいます。
論文要約はこちらの記事にまとめています。
Donanemabは、早期症候性アルツハイマー病患者の臨床的進行を76週時点でわずかに抑制しましたが、意味のある効果は認められませんでした。
しかし論文をよく読むと、主要評価項目の効果は、患者が実感できる最小限の改善(MCID)に届いていません。
それでも効果があるように見えるのはなぜでしょうか?
そこには、「結果のリフレーミング(再構成)」と「過大解釈のレトリック」という、臨床試験解釈に潜む典型的な技法があります。
リフレーミング(reframing)とは、同じ事実を異なる角度から語ることで、その意味や印象を変える技術です。
心理学や広告ではよく知られた方法ですが、臨床試験の解釈においても、小さな効果を“大きく見せる”ために用いられることがあります。
Donanemabの論文では、以下のような「効いていない」ことを「意味がある」と言い換える技法が使われています。
iADRSスコアの群間差は+3.25ポイントであり、軽度認知障害におけるMCID(5ポイント)に届いていません。
しかし論文ではこの事実を明示せず、「疾患進行を防いだ人の割合」や「進行までの時間差」といったデータを提示します。
統計学的には正しいが、読者の印象は「思ったより効いているかも」と変わってしまいます。
CDR-SBスコアが変化しなかった人の割合が、Donanemab群で47%、プラセボ群で29%。
これを「疾患進行を防いだ患者が多かった」と表現します。
しかしこれは、連続変数を二値化することで意味を作り出す典型的な手法です("dichotomania")。0.5ポイントの変化も、3ポイントの変化も「進行」として同列に扱ってしまうことに注意が必要です。
一見すごそうですが、CDR-Gは一段階でもスコアが上がれば「進行」とカウントされるスケール。
そのため、わずかな症状変化でもイベントとして扱われ、差が強調されやすい構造があります。
Donanemabは「疾患進行を4.4〜7.5か月遅らせた」と記載されています。
これは、平均スコアの差を時間軸に換算したものであり、患者の実感とは一致しない可能性があります。
あたかも半年分の改善があったかのように錯覚されがちですが、臨床現場では“変化なし”と感じるレベルかもしれません。
MCID(Minimal Clinically Important Difference)は、「患者や臨床医が意味があると感じる最小限の変化」です。これを満たさなければ、「効いている」とは言いづらいというのが国際的な共通認識です。
Donanemab試験では、iADRS・CDR-SBなどの主要アウトカムすべてでMCID未満。
にもかかわらず、それを補完する形で別指標(進行割合、時間差、モデル推定)を使って「意味がある」と語る構図は、患者の体感ではなく、印象操作に近いと感じざるを得ません。
MWPC(Meaningful Within-Patient Change)は、MCIDを個人レベルに落とし込んだ概念で、患者一人ひとりの「意味のある変化」に着目するものです。
本試験では、「MWPCの悪化閾値を超えた人の割合がDonanemab群で少なかった」と報告されています。
これは有益な視点ではあるものの、次のような問題点もあります。
MWPCの定義が恣意的になりやすい(何点を「意味ある」とするかは文献により異なる)
群平均ではなく割合で比べるため、連続的変化の情報を捨ててしまう
効果のある人/ない人のサブグループ分析が不十分
つまり、あくまで補足的な分析であり、MCID未達の事実を打ち消せるものではありません。
Donanemabは確かに、アルツハイマー病の新しい治療選択肢として前進かもしれません。
しかし、「効いているように見せる技術」が使われている場面では、数字の背後にある意味を見抜く力が必要です。
統計的有意性 ≠ 臨床的意義
二値化された指標 ≠ 個々の患者の実感
推定された時間差 ≠ 体感される改善
このような視点を持つことで、医療者として、データに過度な期待を寄せず、患者に誠実な説明ができるようになるはずです。
Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330(6):512-527. doi:10.1001/jama.2023.13239
※この記事はAI共創型コンテンツです。
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Dr. bycomet
医師。2007年よりブログ・ツイッターでの情報発信を開始。2015年「地域医療ジャーナル」(有料会員数10,886人/月)を創刊、2018年オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(登録会員数40人)を設立。2022年オンラインプラットフォーム「小さな医療」(登録会員数120人)を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と情報提供を続けています。
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