
中国は、トリウム原子力で世界をリードする国になりました。ここ30年ほどで各国との距離を一気に広げ、いまや「トリウム時代」の主導権を握りつつあります。
トリウム原発の多くは「溶融塩炉(モルテンソルト炉)」という方式をとります。
燃料となるトリウムは塩の中に溶かされ、その塩が高温のまま循環しながら熱を取り出す仕組みです。
現在主流の軽水炉と違い、高圧ではなく常圧近くで運転できるため、大規模な圧力容器が不要で、炉心溶融のリスクも理論的に低くなります。
さらに、長寿命の高レベル放射性廃棄物が少なく、核拡散のリスクも抑えられる点が大きな特徴とされています。
中国の優位は、突然生まれたものではありません。
1970年代から、当時のアメリカの研究を参考にしつつ、トリウムと溶融塩炉の研究を細々とでも継続してきたことが出発点です。
他国がウラン軽水炉で十分と判断し、トリウムや溶融塩炉の研究予算を削減する中で、中国は「将来のエネルギー保険」として基礎研究を続けました。
2000年代後半からは、エネルギー安全保障と脱炭素の両面から重要性が再認識され、国家プロジェクトとして一気に加速します。
中国は世界で初めて、トリウム燃料の溶融塩炉を実機レベルで臨界させ、安定運転にこぎつけた国です。
これにより、「机上の理論」だったトリウム溶融塩炉が、「現実に動く技術」であることを実証しました。
・トリウムからウラン233への変換サイクルの成立
・溶融塩を使った長時間運転と材料の耐久性データの蓄積
・砂漠地帯などインフラが限られた地域での設置・運転ノウハウの蓄積
これらは、ゼロから追いかける国にとっては数十年かかる蓄積です。
そのため、多くの専門家が「技術と経験の蓄積で30年先行している」と評価するようになりました。
中国には、レアアース採掘に伴って大量のトリウムが副産物として蓄積されています。
従来は厄介な放射性廃棄物に近い扱いでしたが、トリウム炉技術が確立すれば「国内産の準無尽蔵エネルギー源」に変わります。
・ウラン輸入依存度を下げ、エネルギー安全保障を高められる
・CO2排出の少ないベースロード電源として、2060年カーボンニュートラル目標の達成に貢献できる
・将来的には、中小型トリウム炉を「輸出インフラ」として一帯一路諸国に広げ、エネルギー分野での影響力を強化できる
こうした戦略的な意味合いも、中国政府が長期視点でトリウムへの投資を続ける背景にあります。
欧米や日本でも、トリウムや溶融塩炉の研究は存在しますが、多くは基礎研究段階か、小規模な設計・シミュレーションにとどまっています。
安全規制の枠組みも、軽水炉を前提としており、新方式の審査には時間とコストがかかる状況です。
中国に追いつくには、次のような条件が必要になります。
10年以上にわたる安定した研究開発予算
実験炉からデモ炉まで進められる規制・立地・人材の一体的な枠組み
「短期的収益」ではなく、「20〜30年先のエネルギー安全保障」として評価する政治判断
つまり、中国が積み上げてきた30年分の「技術・人材・制度」の複合的な蓄積を、一から作り直す必要があるのです。
このギャップこそが、「中国がトリウム発電で30年先行している」と言われる本当の理由だと言えます。
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