
フランスにおいて、公証人(ノタール)は非常に大きな信頼と権威を担う職業です。司法省によって任命される公務員として、公正証書の作成、不動産取引の合法性の確保、相続手続きの管理、重要な法的アドバイスの提供などを行います。その印章は国家の権威を持ち、人生の最も重要な行為の真正性と安全性を保証するものです。しかし、この由緒ある制度の中にも、暗い側面が存在します。少数ではありますが、一部の公証人たちはその特権的な立場を悪用し、国民の信頼を裏切り、甚大な経済的・精神的被害をもたらす不正・違法行為に手を染めているのです。
本記事では、こうした職権濫用の実態、その法的結果、そして厳しい警告となる注目すべき有罪判決について詳しく検証します。
不正を理解するには、まず公証人の独特な役割を把握する必要があります。彼らは以下のような存在です:
公務員:不動産、婚姻契約、遺言などに関する公正証書(acte authentique)について、国家から委任された独占的権限を行使します。
法律専門職:公平で有能な助言を提供する義務があります。
資金の管理者:取引中、顧客から預かった多額の手付金等を公証人保証基金(fonds de garantie)などで保管することがよくあります。
厳格な規則の対象:公証人高等評議会(Conseil Supérieur du Notariat)の管轄下にあり、報酬(定められた料金表)、利益相反、守秘義務などに関する厳しい法律に従わなければなりません。
この「公的権威」「法律専門知識」「資金へのアクセス」が組み合わさることが、倫理観が欠如した場合、不正行為の機会を生み出すのです。
これは最も凶悪で一般的な犯罪です。公証人が個人的利益や事務所の資金繰りのために、預かった顧客の資金を不正使用します。
具体例:住宅購入のための顧客の手付金を、事務所の運営費の支払いやリスクの高い投資に流用し、取引全体を危険にさらす。
多くの報酬は規制されていますが、以下の方法で費用を水増しすることがあります:
不当な「追加サービス」料:簡単な事務作業に対して過大な金額を請求する。
経費の偽装:第三者(税務署、登記所)に支払う立替金を水増しする。
報酬明細書の不提示:規制された報酬見積書(devis)を請求する顧客の権利を伝えない。
公証人は絶対的に公平でなければなりません。違反例としては:
取引の双方に助言する:十分な説明と同意なく中立性を損なう行為。
内部情報を利用して顧客から不動産を不当に安く購入する。
リベートの見返りに、特定の不動産業者や銀行を優遇する。
これには、不備のある遺言や契約書の作成、抵当権などの正確な調査(hypothèques)の不実施、顧客に多大な経済的損失をもたらす事務上のミスなどが含まれます。
特に多額の現金を伴う不動産取引において、資金の出所に関する義務的な確認(デューデリジェンス)を怠るなど、公証人の立場が不正な資金を合法化するために悪用されることがあります。
不正を行う公証人は、二重の司法システムに直面します:
懲戒機関:地方および全国の公証人会は、警告、罰金から最も重い資格剥奪(radiation)までの制裁を科すことができます。
刑事裁判所:違法行為に対して、公証人も一般市民と同様に裁判にかけられ、刑事罰を受ける可能性があります。
ここでは、その重大性と多様性を示す、フランスで話題になった実際の例を紹介します。
背景:2015年、エヴリーの公証人が大規模な背任と詐欺の容疑で起訴されました。
行為:数年かけて、顧客の保証基金口座から700万ユーロ以上を着服。その資金は贅沢な生活や事務所の赤字補填に充てられました。
判決と刑罰:2019年、パリ控訴院は、彼に実刑3年(執行猶予2年付きの5年刑) の判決を下し、職業からの永久追放を命じました。また、被害者への数百万ユーロの賠償支払いも命じられました。
背景:2018年、ニースで弁護士、公証人、不動産業者が関与した高プロファイル事件。
行為:ある公証人が、麻薬取引による資金をフランスリビエラの高級不動産購入を通じて洗浄する計画の中心人物でした。彼は大規模な現金支払いを承知で受け入れ、資金の出所を曖昧にするために書類を偽造しました。
判決と刑罰:加重マネーロンダリングの罪で実刑4年および高額の罰金刑を受けました。
背景:2017年、ノール県の公証人と数名の共犯者が有罪判決を受けました。
行為:虚偽の費用や手数料をでっち上げることにより、数百人の顧客、特に相続手続き中の遺族に対して、組織的な過剰請求を行っていました。その規模は「産業的」で、多くは悲しみに暮れる脆弱な家族が標的にされました。
判決と刑罰:主犯格の公証人は3年の実刑(電子監視付き) を言い渡され、資格を剥奪されました。裁判所は「特に重大な信頼毀損」であると指摘しました。
背景:2020年、公証人高等評議会の懲戒委員会にかけられた事例。
行為:ある公証人が、高齢の顧客から市場価格を大幅に下回る価格で農場を購入し、顧客が独立した助言を求めるよう促すことなく、その後すぐに多額の利益を得て転売しました。
結果:この公証人は、重大な職務上の義務違反と利益相反により、資格剥奪の処分を受け、この決定は後に裁判所によっても支持されました。
登録情報を確認する:公式の公証人高等評議会(Conseil Supérieur du Notariat)のウェブサイトで、公証人の状況を確認しましょう。
詳細な書面による見積書(Devis)を要求する:あらゆるサービスについて、規制に基づく報酬見積書を請求する権利があります。
質問する:どの項目や手続きについても、ためらわずに説明を求めましょう。評判の良い公証人は説明してくれます。
セカンドオピニオンを求める:複雑な事案(大規模な相続、資産譲渡など)については、独立した別の公証人に相談することを検討しましょう。
疑わしい行為を報告する:
その県の公証人会(Chambre des Notaires)へ。
犯罪行為については共和国検察官(Procureur de la République)へ。
UFC-ケ・ショワジールなどの消費者保護団体へ。
フランスの大多数の公証人は誠実に職務を遂行しており、法的安全にとって不可欠な存在です。しかし、この職業に与えられた権力は、最高水準の監視を要求します。上記の有罪判決は、司法制度が行動を起こすことを示していますが、多くの場合、被害が発生した後です。
現在進行中の改革は、特に報酬体系の透明性の向上と監督メカニズムの強化を目的としています。結局のところ、最初の防衛線は国民の意識です。潜在的な落とし穴を理解し、自分たちの権利を知ることによって、市民はフランスの法的生活の柱であるこの職業の健全性を維持し、公証人の印章が信頼の象章であり続け、裏切りの象徴とならないようにする手助けができるのです。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。公証人の不正行為の被害者と思われる場合は、法律の専門家にご相談ください。
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