心血管疾患または慢性腎疾患を有する2型糖尿病患者において、経口セマグルチドはプラセボと比較して主要心血管イベントを14%低下させました。
【音声解説】
Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 Diabetes
50歳以上で、HbA1c 6.5〜10.0%、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、慢性腎疾患(CKD)、またはその両方を有する2型糖尿病患者9,650人(33か国、444施設)
1日1回経口セマグルチド(最大14mg)+標準治療
プラセボ+標準治療
主要アウトカム:3点複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)
副次アウトカム:重度腎疾患イベント(5点複合)、心血管死、重度四肢イベント(2点複合)
国際共同・二重盲検・プラセボ対照・イベント駆動型・優越性を検証する第3b相ランダム化比較試験
観察期間の平均は47.5±10.9か月、中央値は49.5か月
主要アウトカム発生率:セマグルチド群12.0% vs プラセボ群13.8%、HR 0.86(95%CI 0.77–0.96、P=0.006)
心筋梗塞:4.0% vs 5.2%、HR 0.74(95%CI 0.61–0.89)
脳卒中:3.0% vs 3.3%、HR 0.88(95%CI 0.70–1.11)
心血管死:6.2% vs 6.6%、HR 0.93(95%CI 0.80–1.09)
腎疾患イベント:8.4% vs 9.0%、HR 0.91(95%CI 0.80–1.05、P=0.19)→統計的有意差なし
重度四肢イベント:1.5% vs 2.1%、HR 0.71(95%CI 0.52–0.96)
重篤な有害事象:47.9%(セマグルチド) vs 50.3%(プラセボ)、P=0.02
有害事象による治療中止率:15.5% vs 11.6%、主に消化器症状が原因
McGuire DK, Marx N, Mulvagh SL, et al. Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;392(20):2001-2012. doi:10.1056/NEJMoa2501006
世界で約8億人が糖尿病に罹患し、その90%以上が2型糖尿病である。
2型糖尿病は心血管疾患(CVD)の高リスクと関連する。
一部のGLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬は心血管イベントを減少させる効果がある。
注射製剤のセマグルチドでは心血管および腎イベントの有効性が確認されている。
経口セマグルチドの心血管安全性は過去のPIONEER 6試験で確認済みだが、心血管有効性の評価は未完了。
本研究(SOUL試験)は、経口セマグルチドの心血管有効性を高リスクの2型糖尿病患者で評価するために設計された。
経口セマグルチドは心血管イベントを14%相対的に低下させ、注射型と同様の有効性を示した。
最も効果が大きかったのは非致死性心筋梗塞のリスク減少。
FLOW試験との比較では、腎イベント抑制効果は統計的に有意ではなかった(背景腎機能の違いやバイオアベイラビリティの差が影響)。
アジア、HbA1cが8%以上の患者で効果が大きく、サブグループ間の一貫性はおおむね認められた。
安全性プロファイルは良好で、新たなリスクシグナルは認められなかった。
試験対象は心血管疾患または腎疾患の既往がある人に限られており、一般の2型糖尿病患者全体には外挿困難。
女性(28.9%)とBlack人種(2.6%)の割合が少なく、代表性に乏しい。
経口セマグルチドは吸収率が低いため、個人差や服薬タイミングの影響を受けやすい。
腎アウトカムについてはパワー不足の可能性あり(ベースラインeGFRが高めであった)。
はい。
→ 無作為化(1:1)により、経口セマグルチド群とプラセボ群に割り付けられている。
はい。
→ 二重盲検試験であり、被験者・研究者ともに割り付けを知らされていない。
はい。
→ 表1に示されたベースライン特性(年齢、HbA1c、BMI、疾患歴など)はほぼ一致。
はい。
→ 参加者、治療者、評価者すべてに対して二重盲検がなされている。
はい。
→ 主要および副次アウトカムはITT解析に基づいて行われた。
はい。
→ フォローアップ完了率は98.4%、生存状況は99.5%で把握されており、極めて良好。
主要心血管イベント(MACE):
セマグルチド群:12.0%(579/4825)
プラセボ群:13.8%(668/4825)
ハザード比(HR):0.86(95% CI, 0.77–0.96)
絶対リスク差:1.8%減少
NNT(治療必要数):約50人/3年
はい。
一部の医療現場では重要。
相対リスク14%減少、NNT 50は、心血管予防薬としては実用的な水準。
非致死性心筋梗塞のHRは0.74と大きく、有用性を示す。
高リスク2型糖尿病患者(ASCVDやCKDあり)に限られており、低リスク群には適用困難。
セマグルチド(Rybelsus)は国内承認済み(2021年日本承認)であり、使用可能。
概ね良い。
MACEのリスク減少に対し、重篤な副作用の増加はなかった。
中止率は高め(セマグルチド群で15.5%、プラセボ群で11.6%)で、特に消化器症状による中止が多い(6.4% vs 2.0%)。
注射を避けたい患者には選択肢となる。
ただし、コストは高く、長期服用の保険適用・費用対効果の検討が必要。
項目 | 評価 |
---|---|
エビデンスの質(GRADE) | ★★★★(高) |
推奨の強さ | 高リスク2型糖尿病患者への経口セマグルチド使用は弱い推奨(消化器副作用、中止率に留意) |
女性・黒人などの代表性が低く、人種・性差の外的妥当性に欠ける
CKDに対する効果は別試験(FLOW)と一貫せず、腎保護効果は確定的でない
低リスク患者への一般化は不適
イベントベースのデザインのため、長期使用の影響(5年以上)は未評価
Dr. bycomet