Dr. bycomet
貼付式NSAIDsパッチは、長期では臨床的に意義ある程度の痛み軽減が期待できる一方、短期効果の臨床的メリットは限定的となっています。
【音声解説】
世界全体で生活の質を脅かしている筋骨格系疼痛は、1990 年から 2017 年の間に罹患件数が 58 % も増加したと報告されており、日常診療ではきわめて頻繁に遭遇する課題です。従来は経口 NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が標準治療として用いられてきましたが、消化管障害や心血管イベントといった有害事象が避けられませんでした。
こうした背景から「貼る」ことで有効成分を徐放し、全身曝露を抑えられる経皮製剤が注目されています。しかし、パッチ療法は価格が高い上、疾患や薬剤のバリエーションが多く、実際にどの程度痛みを軽減できるのか、エビデンスは明確ではありませんでした。
今回取り上げるシステマティックレビュー/メタアナリシスは、ジクロフェナクやケトプロフェンなどを含む抗炎症パッチ 23 試験・4,729 例を統合し、急性および慢性の筋骨格系疼痛に対する有効性と安全性を評価した最新の研究です。
Efficacy of transdermal anti‑inflammatory patches for musculoskeletal pain: a systematic review and meta‑analysis
・無作為化プラセボ対照試験(RCT)23件、延べ 4,729 例
・対象は捻挫・腱炎・軟部組織損傷・腱障害・変形性関節症・腰痛など急性/慢性の筋骨格系疼痛患者
・貼付式NSAIDsパッチ
- ジクロフェナク(60–180 mg, 1–1.3 %)
- ベタメタゾン(2.25 mg)
- イブプロフェン(200 mg)
- ケトプロフェン(100 mg)
- 一酸化窒素パッチ(1.25 mg グリセリルトリニトレート)など
有効成分を含まないプラセボパッチ
主要アウトカム:
・運動時疼痛(視覚的アナログスケール〈VAS〉/数値評価スケール〈NRS〉, 長期=3 か月以上)
副次アウトカム:
・運動時疼痛(短期0–6 週, 中期6 週–3 か月)
・安静時疼痛、疼痛スコア変化、機能・痛み自己評価、レスキュー薬使用量、全般的有効性・忍容性評価、有害事象
・システマティックレビューおよびメタアナリシス
・検索:CENTRAL, MEDLINE, EMBASE, CINAHL, PubMed(最終更新2024年1月)
・リスクオブバイアス:Cochrane RoB 1.0
・確実性評価:GRADE
長期(≥3 か月)運動時疼痛:SMD -2.69 (95 % CI -4.14 – -1.24, n = 139, 低確実性) ― 臨床的に意義あり
短期(0–6 週)運動時疼痛:SMD -1.12 (95 % CI -1.68 – -0.56, n = 2,434, 低確実性) ― 臨床的意義なし
中期(6 週–3 か月)運動時疼痛:SMD -0.26 (95 % CI -4.01 – 3.48, n = 144, 低確実性) ― 効果なし
短期疼痛スコア変化:SMD -0.68 (95 % CI -1.30 – -0.06, n = 2,229, 中等度確実性)
短期安静時疼痛:SMD -1.04 (95 % CI -1.99 – -0.10, n = 1,274, 中等度確実性)
短期有害事象:リスク比 0.77 (95 % CI 0.57 – 1.04, n = 3,245, 中等度確実性) ― 差なし
Sánchez MB, Callaghan MJ, Selfe J, Twigg M, Smith T. Efficacy of transdermal anti‑inflammatory patches for musculoskeletal pain: a systematic review and meta‑analysis. Pain Manag. 2024;14(10‑11):557‑569. doi:10.1080/17581869.2024.2421153.
略語:
NSAIDs=非ステロイド性抗炎症薬、VAS=視覚的アナログスケール、NRS=数値評価スケール、SMD=標準化平均差、CI=信頼区間、RCT=無作為化比較試験
筋骨格系疼痛は世界的に障害の主因であり,1990 年から 2017 年までに発症件数が 58% 増加した。
治療には NSAIDs,ステロイド,グリセリルトリニトレート(NO 供与体)などが用いられるが,経口・注射投与では初回通過効果や消化管・心血管イベントなど多くの有害事象が問題となる。
経皮貼付製剤(トランスダーマルパッチ)は血中濃度を安定化させ,経口薬の副作用回避や投与量の精密管理が可能な一方,コストが高く日常診療では普及が限定的。
オピオイドパッチに関するレビューは存在するが,抗炎症薬パッチの筋骨格系疼痛に対する系統的レビューは未実施だった。
そこで本研究は,急性・慢性筋骨格系疼痛に対する抗炎症パッチの有効性を体系的に検証することを目的とした。
疾患の多様性と薬剤の種類が多く,状態別・薬剤別に十分なメタ解析ができなかった。
痛みのレベルが「中等度」で全体的に健康な被験者が対象であり,重症例や併存症例への一般化は困難。
アドヒアランス(貼付順守)データがほとんど報告されておらず,効果推定に不確実性が残る。
長期フォローアップ試験が少なく,中期(6 週~3 か月)では有効性が確認できなかった。
I² 90% 以上の高い異質性や出版バイアスが示唆され,エビデンス確実性が全体として低~中。
長期(≥3 か月)で臨床的に意味のある疼痛軽減が得られる可能性は示されたが、エビデンス確実性は低く、サンプルも限定的。
短期効果は統計学的に有意でも臨床的意義は小さい。急性外傷の一次治療として貼付剤を選択する根拠は弱い。
高い異質性・出版バイアスの懸念、疾患・薬剤のばらつきにより結果の信頼性は限定的。
経口 NSAIDs が禁忌または副作用リスク高い患者に、長期管理の追加オプションとして検討する価値があるが、コストと皮膚副作用を説明した上で共有意思決定を。
今後は 疾患別・薬剤別に十分な規模で長期追跡し、アドヒアランスとコスト効果を含む研究が求められる。
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