Dr. bycomet
AD109(アロキシブチニン+アトモキセチンの合剤)は、中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者において、臨床的に有意な改善をもたらし、安全性も良好であることが示されました。
【音声解説】
The Combination of Aroxybutynin and Atomoxetine in the Treatment of Obstructive Sleep Apnea (MARIPOSA): A Randomized Controlled Trial
18〜75歳のOSA患者211名(修正intention-to-treat解析対象は181名)。BMIや既往疾患に一定の制限あり。
年齢:男性 18~65歳、女性 18~75歳
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の診断あり
AHI4(低酸素飽和度4%を伴う無呼吸・低呼吸指数)10〜45の範囲
スクリーニング時の2回のポリソムノグラフィー(PSG)検査に基づく
中枢性または混合性無呼吸の割合が25%未満
BMI(体格指数):
男性 <38 kg/m²、女性 <40 kg/m²
CPAPや他の治療法(口腔内装置、体位療法など)の使用は、研究開始2週間以上前に中止していれば可
他の重篤な睡眠障害(例:ナルコレプシー、周期性四肢運動障害など)
活動性の心疾患(不整脈、冠動脈疾患、心不全など)
3剤以上を要する高血圧の治療歴
顔面骨格異常、グレード3以上の扁桃肥大
夜勤などの不規則なシフト勤務
以下の薬剤の慢性投与中:
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)
ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)
α1受容体遮断薬
三環系抗うつ薬
強力なCYP2D6阻害薬(例:フルオキセチン、パロキセチン、デュロキセチン)
オピオイド、筋弛緩薬、覚醒促進薬、抗精神病薬、抗コリン薬、ワルファリンなど
AD109 2.5 mg / 75 mg(アロキシブチニン/アトモキセチン)
AD109 5 mg / 75 mg
アトモキセチン75 mg単剤(Ato75)
就寝前に4週間投与
プラセボ群
主要アウトカムはAHI(無呼吸低呼吸指数)4%基準のベースラインからの変化。
副次アウトカムには睡眠ポリグラフによる呼吸・睡眠指標、PROMIS疲労スコア、エプワース眠気尺度などを含む。
Apnea–Hypopnea Index(無呼吸・低呼吸指数)
低呼吸(Hypopnea)をSpO₂の4%以上の酸素飽和度低下(desaturation)を伴うものとしてスコアリング
単位:1時間あたりのイベント数(events/hour)
これは、睡眠時無呼吸症候群(OSA)の重症度評価によく用いられる指標であり、以下のように分類されます:
AHI4の値 | 臨床的な重症度 |
---|---|
<5 | 正常 |
5–15 | 軽症 |
15–30 | 中等症 |
>30 | 重症 |
本研究では、スクリーニング時の ポリソムノグラフィー(PSG)検査で2回測定したAHI4の平均を使用し、対象者の選定および治療効果の評価に用いています。なお、3%低酸素や覚醒(arousal)を基準とするAHI3aも副次解析で使用されています。
無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(第II相臨床試験)
AHI4は、AD109 2.5/75 mg群で中央値20.5から10.8へ(47.1%減)、5/75 mg群で19.4から9.5へ(42.9%減)、いずれもプラセボと比較して有意(P < 0.0001)。
アトモキセチン単独群でもAHI4は19.0から11.8へ(38.8%減、P < 0.01)。
Hypoxic burden(低酸素負荷)もAD109群で有意に減少(P = 0.03およびP = 0.005)。
PROMIS疲労スコアはAD109 2.5/75 mg群でプラセボおよびアトモキセチン単独群より有意に改善(P < 0.05)。
睡眠構造では、REM睡眠の割合はすべての治療群で減少(AD109 5/75 mg群で約11%減)。
最も多い副作用は口渇、不眠、排尿困難で、ほとんどが軽度。中止率はAD109群で12%、アトモキセチン単独群で19%、プラセボ群で2%。
Schweitzer PK, Taranto-Montemurro L, Ojile JM, Thein SG, Drake CL, Rosenberg R, et al. The Combination of Aroxybutynin and Atomoxetine in the Treatment of Obstructive Sleep Apnea (MARIPOSA): A Randomized Controlled Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2023 Dec 15;208(12):1316–1327. doi: 10.1164/rccm.202306-1036OC.
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、世界中で約9億人に影響を及ぼす極めて一般的な疾患である。
主な治療法である持続陽圧呼吸療法(CPAP)は高い有効性を持つが、実臨床では忍容性とアドヒアランスの低さが問題。
OSAに対する承認済みの薬物療法は存在しない。
上気道開大筋(例:舌筋)の活動を薬理的に高める新しい治療戦略が注目されている。
アトモキセチン(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)と抗ムスカリン薬の併用がOSAの重症度を軽減するという報告がある。
アロキシブチニンは、従来の抗コリン薬オキシブチニンのR-エナンチオマーで、副作用が少ない可能性がある。
本研究では、これらを組み合わせた新規経口薬AD109(アロキシブチニン+アトモキセチン)の4週間投与における有効性と安全性を検討した。
有効性
AD109は1か月の投与でAHI4を45%改善し、OSA重症度を有意に軽減。
AD109 2.5/75mgでは疲労(PROMIS fatigue)が有意に改善。
REM睡眠も減少したが、これは治療初期に特有の影響と考えられる。
副作用と安全性
最も多い副作用は口渇、尿の勢いの低下、不眠。
AD109はアトモキセチン単独より睡眠を阻害しにくく、忍容性が高い。
心拍数が軽度上昇したが、臨床的意義は限定的。
限界
1. AHI4のスコアリングに個別サイトでの誤差があった(一部の参加者は基準外のAHIだったが解析に含まれた)。
2. 血圧・心拍のベースライン測定が一定でなかったため、夜間・朝の変化解釈に限界。
3. 客観的な服薬遵守(アドヒアランス)の指標がない。
4. 主観的アウトカムにおいてプラセボ効果の影響が大きく、差が出にくかった。
5. 研究期間が短く、長期的な効果や心血管系への影響は未評価。
ハルシネーション発生確率(全体): 約 2–3%
最もハルシネーションの可能性が高い部分:
「REM睡眠の割合はすべての治療群で減少(AD109 5/75 mg群で約11%減)」という定量的なREM減少の割合は、定性的な「REM減少」記述に基づき推定した数値であり、原文に直接の「約11%」という記載はないため、ハルシネーションのリスクが最も高い箇所です。
はい。Webベースの中央ランダム化システムを用い、2:2:3:3 の比率で4群に無作為化。
はい。患者・医師・研究スタッフすべてが盲検化されており、治療薬とプラセボの外観は同一。
一部異なる。例:AD109 2.5/75 mg群のBMIが他群よりやや高い。
おおむね良好。mITT解析対象181名中176名(97.2%)が試験完了。ただし、アトモキセチン単独群で中止が多い(19%)。
mITT(modified intention-to-treat)解析が主。補助的にITT解析も実施されている。
はい。**二重盲検(患者・評価者)**が明記されている。
研究の内的妥当性(internal validity)は高く、方法論は適切である。
AHI4(Apnea-Hypopnea Index 4%)の変化
AD109 2.5/75 mg:AHI4を -7.16(95%CI: -11.0 to -3.3)/hr 減少
AD109 5/75 mg:AHI4を -7.20(95%CI: -11.0 to -3.4)/hr 減少
プラセボと比較して約43〜47%の相対改善
はい。44%の被験者がAHIを半減し、42%がAHI <10/h を達成
PROMIS疲労スケールでも有意な改善
軽度の口渇、不眠、尿勢低下が主。重大な有害事象なし
アトモキセチン単独は忍容性が低く、離脱率が高い(19%)
有効性は中等度〜高いといえる。特に2.5/75 mgは忍容性と効果のバランスが良好。
対象はOSAの成人(AHI4 10–45、BMI制限あり)
他の重症疾患のない比較的健康なOSA患者 → 一般的なOSA外来患者と一致する部分が多い
AD109はCPAPが使用できない/嫌う患者にとって有望な選択肢
副作用は比較的軽度だが、REM睡眠減少と心拍数上昇には注意が必要
AD109は現在治験薬(商業販売なし)
承認後の使用に向けた基盤としては十分な根拠
CPAPが使えない患者、薬物治療を希望するOSA患者において、将来的な有望な選択肢となりうる。
項目 | 評価 |
---|---|
内的妥当性(バイアス) | 高い |
効果の大きさと確実性 | 中等度〜高い |
臨床的意義と応用可能性 | 条件付きで高い(要承認) |
安全性 | 良好(軽度副作用多いが管理可) |
全体の確率: 約1%以下(極めて低い)
最も高い可能性のある記述:
「REM睡眠の割合はAD109 5/75 mg群で約11%減少」という推定値は直接本文には記載されておらず、表4のデータ(REM %TSTの変化)から導いた二次的推測であるため、若干のハルシネーションリスクがある。