
今日は、AI技術の進化と業界の過剰供給が、ビート販売ビジネスの未来にどのような影響を与えているのかについて解説していく。2018年頃までは、YouTubeやAirbit、BeatStarsなどのプラットフォームで成功するビートメーカーが多く、ある程度「定番のノウハウ」や「王道のやり方」が通用していた時代があった。中でも、比較的早い段階から参入していたプロデューサーは、自分のジャンルやスタイルに専念し続けることで、市場の中で優位なポジションを獲得しやすかった。
しかし2025年現在、タイプビート系のチャンネルの再生数や、オンラインでのビート販売数は全体的に大きく落ち込んでいる。特にBeatStarsのようなマーケットプレイスで上位表示されることは、よほどの実績や仕掛けがない限り、かなり難しくなっている。背景には、コロナ禍以降にビートメイクやラップを始める人が急増したこと、そしてAI技術の発達によって制作そのもののハードルが一気に下がったことがあり、その結果として業界全体が明らかな供給過多の状態に近づいている。ニッチだと思われていたジャンルであっても、少し需要が見えた瞬間にすぐ競合が増え、価格競争や「ビートは余っているのに買い手が足りない」という状況が起こりやすくなった。
AIによる自動ビート生成は、この参入障壁の低下をさらに後押ししている。現段階では、AIビートにはまだ「人間らしさ」や作り手ならではの癖・世界観が十分に備わっていないケースも多いが、それでも量産という観点では大きく貢献している。アーティスト側から見ても、安価でそこそこのクオリティのAIビートを簡単に手に入れられるようになり、結果的に従来型のビートメイカーが提供するビートの価値や単価は、全体として下方圧力を受けている。今後は、AI生成物専用のカテゴリが設けられたり、逆に人力制作のみを許可する枠組みが作られたりするなど、何らかの形でルールや規制が整備されていく可能性もあるだろう。その中で、単なる「ビートの供給元」としてではなく、独自のブランドや人間ならではの感性をどう打ち出していくかが重要になってくる。
こうした状況を踏まえると、プラットフォームのアルゴリズム任せで再生数や販売数を期待するやり方だけでは、今後はますます苦しくなる。YouTubeやBeatStarsに加えて、自分自身のブランドや物語性をしっかり構築し、自前のウェブサイトやニュースレター・メールマーケティングなどを通じて、リスナーやアーティストと直接つながっていくことが必須に近くなりつつある。特定のジャンルやムードにこだわること、自分ならではの強みや制作プロセスを前面に出すこと、さらにはカスタムビートの依頼対応やコンサル的な関わり方などを通じて、一人ひとりのアーティストとの関係性を深めていくことが求められている。
最終的には、ビート販売というビジネスモデルそのものを一度見直し、自分のサイトの導線や商品設計を改善しながら、メールやコミュニティを活用した継続的なコミュニケーションを当たり前のように実践していく必要がある。そのうえで、AIと過剰供給が前提となった新しい前提条件の中で、自分なりの立ち位置や価値の出し方を模索し続けることが、この先のAI時代を生き抜くビートメイカーにとって重要なテーマになっていくだろう。
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