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XBB.1.5含有COVID-19 mRNAワクチン接種後2日以内にはアナフィラキシー発症リスクが有意に上昇しましたが、他の15の注目すべき有害事象には28日間のリスク期間中、有意なリスク増加は認められませんでした。
【音声解説】
Evaluating the safety of XBB.1.5-containing COVID-19 mRNA vaccines using a self-controlled case series study
米国の電子健康記録(EHR)データベースNational COVID Cohort Collaborative(N3C)より、2023年9月11日〜2024年6月1日の間に初回XBB.1.5含有mRNAワクチン接種を受けた成人244,494例(平均年齢61.1歳,女性59.4%)
モデルナ社またはファイザー–バイオンテック社製XBB.1.5含有COVID-19 mRNAワクチン単回投与
接種前後の参照期間(先行ワクチン投与後28日以降〜現ワクチン投与14日前およびリスク期間終了30日以降〜観察終了)との比較(自己対照ケースシリーズデザイン)
15種類の注目すべき有害事象(AESI)発症リスク(特にアナフィラキシー)
自己対照ケースシリーズ(SCCS)研究
条件付きポアソン回帰により、リスク期間と参照期間の発症率比(IRR)を推定
COVID-19感染および背景疾病発生率の時間的傾向を共変量として調整
アナフィラキシー:接種当日 IRR 17.35 (95% CI 9.32–30.03)、1 日後 9.35 (5.12–15.95)、2 日後 6.20 (3.40–10.57)。発症例は各期間 <20 件。
急性心筋梗塞:28 日間 IRR 0.94 (0.78–1.14) ― 有意差なし。
出血性脳卒中:IRR 0.71 (0.50–0.98) ― 有意に低下。
虚血性脳血管イベント:IRR 1.18 (0.95–1.44) ― 有意差なし。
ナルコレプシー/カタプレキシー:全体 IRR 1.69 (0.90–3.04)(非有意);Pfizer サブグループで IRR 2.92 (1.10–7.37)。
ギラン・バレー症候群:IRR 0.24 (0.01–1.24) ― 有意差なし。
てんかん発作:IRR 0.92 (0.76–1.12) ― 有意差なし。
心筋炎/心膜炎:IRR 0.43 (0.16–0.95) ― 有意に低下。
その他(凝固障害、多系統炎症症候群、ベル麻痺、横断性脊髄炎、虫垂炎、肺塞栓症)はいずれも統計的有意差を示さず。
*AESI: Adverse Event of Special Interest, IRR: Incidence Rate Ratio, CI: Confidence Interval
Pan Y, Han Y, Zhou C, Zhao L, Zheng J, Ye X, He Y; N3C Consortium. Evaluating the safety of XBB.1.5-containing COVID-19 mRNA vaccines using a self-controlled case series study. Nat Commun. 2025;16:6514. doi:10.1038/s41467-025-61613-4
ワクチンの功績
mRNA ワクチンは重症化・死亡を大幅に減らし、パンデミック収束に寄与してきた
XBB.1.5 単価ワクチンの承認
2023 年 9 月 11 日、米 FDA は Omicron XBB.1.5 を抗原とする単価 mRNA ワクチン(Moderna・Pfizer)を緊急使用許可 (EUA)
免疫逃避と高い伝播性
XBB.1.5 は先行株に比べ中和抗体を回避しやすく、感染拡大を促進することが報告されている
接種規模
2023 年 9 月〜2024 年 3 月の米国で 3,000 万回超が接種された
既存の安全性データの課題
① 受動的監視(VAERS, EudraVigilance)は報告バイアスが大きい
② 先行 SCCS 研究は二価ワクチンや高齢集団に限定
リアルワールドデータの必要性
全米 80 超の医療機関を統合する N3C データベースなら、希少事象を含む早期シグナル検出が可能
COVID-19感染:90日後までを時間依存共変量でモデルに組込
疾患背景の時間的傾向:週単位の背景発症率トレンドを調整
抗凝固薬など時間変動する併用薬
新規基礎疾患発症や重症度の変化
社会経済的要因・医療アクセスの変動
地域的ウイルス変異株流行状況
ヘルシー・ワクチネー効果(接種者の健康志向バイアス)
区分 | 因子 | 本研究での処理 | 出典 |
---|---|---|---|
時間依存 | SARS‑CoV‑2 感染歴(90日以内) | 調整済み(時間依存共変量) | |
〃 | 暦週(weekly temporal trend) | 調整済み | |
非時間依存 | 年齢・性別・人種など | SCCS により自己補正 | |
未調整で影響し得る因子 | - 社会経済状態・医療アクセス変動- 同時期の他ワクチン接種(例:インフルエンザ)- 生活習慣(喫煙・BMI 等)の時間的変化- 接種前後の健康行動(健康意識の高低) | N3C EHR では欠測や変動が多く残余交絡の可能性 |
EHR データ固有の誤分類・欠測:診断コード漏れによるアウトカム過小評価リスク
希少イベントの統計的不安定性:症例数 < 20 の事象は IRR の信頼区間が広い
28 日リスクウィンドウの短さ:遅発性自己免疫・神経疾患を捕捉できない
event‑dependent exposure バイアス:有害事象発生者が追加接種を控えることでリスクが過小推定される恐れ(方法論図示に言及)
地理的代表性の偏り:N3C は学術医療センター比率が高く、全米人口を完全には代表しない
複数比較による第1種過誤:15 事象同時検定のため有意水準を 0.01 に設定したが残余リスクあり
観察研究ゆえの因果推論限界:後ろ向き解析であり因果関係は確定できない
サブグループ解析の不足:年齢層など細分化解析は症例不足で未実施
EHRデータの品質問題:診断コードの誤分類や記録漏れのリスク
希少事象の検出力:30日観察では極めて稀なAESI評価が難しい
時間変動交絡の残存:SCCSは不変因子のみ補正、未測定の時間変動因子は除去困難
一般化可能性の限界:米国N3Cコホート対象のため、他国・全年齢層への適用には慎重を要する
製剤間比較不足:Moderna vs Pfizer–BioNTech間の直接比較が不十分
長期安全性未評価:28日以内の解析に留まり、長期AEの評価は含まれず
Dr. bycomet