診療における単独主治医体制と複数医師チーム体制の比較からは、医療の継続性が患者アウトカムに大きく影響することが明らかになりつつあります。
単独の主治医が継続して診療を担当する体制(高い医療継続性)は、患者の満足度や信頼感が高く [1, 2]、健康アウトカムも良好になる傾向があります。
具体的には、主治医の継続性が高いほど全死亡率の低下 [3]、入院や救急受診の減少 [4]、医療費の節減 [5] といった有益な効果が報告されています。
一方、複数医師によるチーム診療体制では、24時間対応や専門知識の共有といった利点があり、適切に連携が取られれば患者アウトカムは従来型と同等か一部改善する場合もあります。例えば、チーム型プライマリケアでは退院後30日以内の救急受診率および死亡率の軽減が報告されています [6]。
しかし担当医が交代制で頻繁に変わる場合、患者側の安心感や満足度が損なわれる可能性があり [1, 2]、医療の重複や情報伝達ミスによる非効率が生じるリスクも指摘されています [7]。
以下では、エビデンスに基づき両体制の比較を詳細に述べ、患者・家族の心理面や医師の業務負担にも触れます。
診療における単独主治医制(高い継続性)と複数医師チーム制(分散担当)で、患者に関する主要アウトカムがどのように異なるかを比較します。高品質の研究(ランダム化比較試験やコホート研究、メタアナリシス等)から得られた知見を中心にまとめました。下表に主要なアウトカムの違いを整理します。
表 単独主治医制とチーム診療制における主要アウトカムの比較(主なエビデンスに基づく傾向)
上記のように、患者満足度は継続して診療する体制で一貫して高く、死亡率や入院率といったハードアウトカムも継続性の高さとともに改善する傾向が示されています [3, 4]。
一方、チーム診療は即座に継続性を損なうわけではなく、組織だったチームケアでは救急受診の減少やコスト削減など一定の利点も確認されています [6, 8]。
ただし、こうした利点を得るにはチーム内の情報共有や役割分担が円滑に機能することが前提です。継続性の低下によるデメリット(例:患者が毎回異なる医師に症状経過を説明する負担、医師間の方針不一致による混乱)を最小化するため、チーム診療でも可能な限り同じ患者に関わる医師を限定し、副主治医制度などで「顔の見える」チーム継続性を確保する工夫が推奨されます。
患者・家族の心理面では、信頼関係と安心感の違いが大きなポイントになります。単独主治医制では、患者と医師の間に長期の関係が築かれることで「自分のことを分かってくれている」という安心感が生まれます [2]。
実際、継続して同じ医師に診てもらうことは患者に大きな心理的安心を与え、特に高齢患者では主治医の存在を「非常に重要」と感じる割合が高いと報告されています [2]。この安心感は、患者が症状や不安を率直に相談できる土台となり、治療方針への納得感やセルフケア意欲にもつながります。また、継続的な関係は患者家族にも安心をもたらし、在宅療養に対する不安(「急変時に誰が対応してくれるか」等)を和らげる効果があります。
一方、複数医師チーム制では、担当医が交替することで信頼関係の構築に時間がかかる場合があります。毎回異なる医師だと「前回までの経緯を一から説明し直す必要があるのでは」という不安や、医師ごとに言うことが違うのではという心配が生じがちです。継続性が低いケアは患者の不安感や不信感につながり、医療への満足度低下だけでなく治療への主体的参加意欲を削ぐ恐れも指摘されています [2, 7]。特に人生の最終段階にある患者や小児患者では、信頼できる決まった顔ぶれの医療者が関与することが安心感・心理的安定につながるとの報告があり、終末期ケアや小児在宅ケアでは継続性が一層重要とされます。
もっとも、チーム診療でも小規模な固定チームであれば患者は担当者を把握できるため、不安の軽減は可能です。例えば「主治医+副主治医」のように主要な訪問医師を2名程度に絞り、不在時は互いにバックアップする体制では、患者も「顔見知りの先生に代わりに来てもらえた」という安心感を得られます。要は、チームであっても患者視点での継続性(関係性の継続)を保つことが心理面で重要になります。
単独主治医が多くの在宅患者を抱える場合、24時間の対応責任や訪問件数の増加により業務負担が非常に大きくなり得ます。一般にプライマリケア医が一人で全患者をケアする従来型モデルでは、推奨されるすべての予防・慢性疾患管理・急性対応を行おうとすると「1日26.7時間」必要になるとの試算もあります [9](一人では到底こなしきれない業務量を抱えていることの比喩的指摘)。訪問診療においても、主治医単独では夜間呼び出しや緊急往診対応を含め長時間労働になりやすく、心身の負担やバーンアウト(燃え尽き)リスクが懸念されます。
複数医師によるチーム診療は、こうした負担をチームで分担できる点が大きなメリットです。交代制当番により夜間・休日対応をシェアしたり、患者数をチーム内で割り振ることで一人当たりの負担を減らせます。その結果、医師のワークライフバランス改善や離職防止につながるとの報告があります。
スタンフォード大学が導入したプライマリケアのチームモデル(Primary Care 2.0)の研究では、チーム体制の発展度合いが医師の燃え尽き症候群の低下と有意に逆相関し、導入後15か月間は従来より明らかにバーンアウトが減少したとされています [8]。ただし24か月時点では人員カットにより効果が薄れたことも報告され [8]、十分な人的リソースの継続確保が肝要と述べられています。適切に運用されたチームモデルは医師の負担軽減と職務満足度向上に寄与しうるため [8]、昨今プライマリケアの質向上策としても注目されています。
もっとも、チーム診療には調整コストも伴います。複数の医師や職種間で情報共有したりケースカンファレンスを行ったりする手間が必要で、体制構築が不十分だとかえって非効率になる可能性もあります。例えば指示の重複や責任の所在不明瞭による対応遅れが起これば、患者ケアにも悪影響です。従って、チーム診療を導入する際は電子カルテや情報連絡体制の整備、役割分担の明確化が不可欠です。
一方で、役割分担がうまく機能すれば医師は本来の診療に専念でき、業務効率とケアの質の両立が図れます [8]。実際に米国のある診療所ではチームモデルへの移行で医師の「書類業務に追われる時間」が減り、患者ケアや対話に充てられる時間が増えたとの報告もあります。また、チーム診療では看護師・薬剤師・リハ専門職など多職種の協働により、主治医一人では困難な包括ケア(服薬指導の徹底や栄養管理など)が実現し、結果的に医師の負担軽減と患者アウトカム向上の両面効果が得られるケースもあります。医師側の視点では、単独で抱え込まずチームで連携することで働き続けやすい環境を作れる点は大きな利点といえます。
診療における単独主治医体制と複数医師チーム体制の比較からは、医療の継続性が患者アウトカムに大きく影響することが明らかになっています。これまでのエビデンスによれば、主治医との継続性が高いケアは患者満足度や信頼関係の向上に加え、死亡率や入院率の低下、さらには医療費の抑制にも寄与することが報告されています [3, 5]。
これらの知見は主に観察研究によるものですが、異なる国や医療制度においても一貫して認められており、継続性と良好なアウトカムの間に強い因果関係が示唆されています [3]。そのため、在宅医療の質を高めるためには「主治医との継続的な関係」が非常に重要な要素となります。
一方で、複数医師によるチーム診療体制も、適切な工夫と運用によって有効に機能する可能性があります。単独の主治医では対応が難しい患者数や多様なニーズを満たすためには、チーム内での分業が不可欠です。特に高齢化と多疾患が進む現代社会において、複数医師や多職種が連携する在宅ケア体制の構築が推進されています。
重要なのは、チーム体制と医療の継続性の利点を両立させる視点です。例えば、各患者に主担当医と副担当医を設定し、チーム内で顔見知りの医師が継続的に診療に関わる体制を作ることや、定期的な情報共有によって医師が交代しても一定の継続性を確保する工夫が考えられます。
チーム診療導入の効果に関するエビデンスはランダム化試験が少なく、まだ限定的ですが [4]、現状のデータからは、適切に組織化されたチーム医療が継続性の確保とサービスの拡充の両面で効果的であることが示されています [6]。
医師の負担軽減と患者アウトカム改善を両立するため、今後は継続性を重視したチームモデルの構築と、それを支えるさらなるエビデンスの蓄積が求められています。
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※この記事はAI・医師共創型コンテンツ(APCC)です。
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医師。2007年よりブログ・ツイッターでの情報発信を開始。2015年「地域医療ジャーナル」(有料会員数10,886人/月)を創刊、2018年オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(登録会員数40人)を設立。2022年オンラインプラットフォーム「小さな医療」(登録会員数120人)を運営し、エビデンスに基づく地域医療の実践と情報提供を続けています。
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スタンフォード大学が導入したプライマリケアのチームモデルの論文はこちら。 https://paragraph.com/@smaller/primary-care-20