Risk of dementia following gabapentin prescription in chronic low back pain patients
2004年12月1日〜2014年11月1日に米国TriNetXデータベースで慢性腰痛関連の診断を受けた成人(18歳以上)
事前にガバペンチン使用歴・認知症・てんかん・脳卒中・悪性腫瘍を有しない症例
1:1傾向スコアマッチング後の解析対象:ガバペンチン処方群 26,416例/非処方群 26,416例(平均年齢52.4±13.4歳、女性58%)
ガバペンチン処方群:初回腰痛診断後に6回以上のガバペンチン処方を受けた。
非ガバペンチン群:ガバペンチンを一度も処方されていない。
主要アウトカム:ICD‑10コードによる認知症(アルツハイマー病、血管性・その他・原因不明を含む)発症
副次アウトカム:軽度認知障害(MCI)発症
TriNetX全国データベースを用いた後ろ向きコホート研究。
年齢・性別・併存疾患・他鎮痛薬処方などで1:1プロペンシティスコアマッチングを実施。
すべての成人(>18歳)で、ガバペンチン群の認知症発症率は4.3%、非処方群は3.3%であり、RR 1.29(95% CI: 1.18–1.40)で有意に増加した。
軽度認知障害の発症率はガバペンチン群で2.6%、非処方群で1.4%であり、RR 1.85(95% CI: 1.63–2.10)で有意に増加した。
非高齢者(18–64歳)では認知症RR 2.10(95% CI: 1.75–2.51)、MCI RR 2.50(95% CI: 2.04–3.05)と、全体より強い関連が認められた。
高齢者(≥65歳)では認知症RR 1.28(95% CI: 1.15–1.42)、MCI RR 1.53(95% CI: 1.28–1.83)と有意なリスク上昇があった。
ガバペンチン処方回数を12回以上群と3–11回群で比較すると、全成人で認知症RR 1.40(95% CI: 1.25–1.57)、MCI RR 1.65(95% CI: 1.42–1.91)と回数依存的なリスク増加が確認された。
Eghrari NB, Yazji IH, Yavari B, Van Acker GM, Kim CH. Risk of dementia following gabapentin prescription in chronic low back pain patients. Reg Anesth Pain Med. 2025;0:1–6. doi:10.1136/rapm-2025-106577.
ガバペンチンは1993年にFDA承認され、部分発作治療薬として開発された後、20年以上にわたり慢性疼痛治療にも使われている。
乱用ポテンシャルが低く、オピオイドの代替として注目されてきた。
神経障害性疼痛を含む慢性痛管理において、鎮痛効果だけでなく潜在的な神経保護効果も期待されて使用が拡大した。
一方で、シナプスやオリゴデンドロサイトへの影響、患者間での乱用増加傾向などの懸念が報告されている。
脳内の電位依存性カルシウムチャネルを阻害し、興奮性神経伝達物質放出を抑制する作用機序を持つ。
認知症リスクとの関連については、「増加リスクあり」を示す研究と「リスクなし」を示す研究とで結果が分かれており、特に年齢や用量依存性の影響は不明瞭。
年齢層別の薬物代謝差やマクロ的解析が不足している現状を受け、本研究では全国規模データベースで慢性腰痛患者におけるガバペンチン処方後の認知症・軽度認知障害リスクを年齢別に検証することを目的とした。
(1:1プロペンシティスコアマッチングで制御)
デモグラフィクス:年齢・性別・人種・民族
主要併存疾患:高血圧、虚血性心疾患、気分障害、不安障害、ニコチン依存、アルコール関連障害、糖尿病、高脂血症、睡眠障害、パーキンソン病 他
他鎮痛薬処方:オピオイド、三環系抗うつ薬、デュロキセチン、ベンラファキシン、ベンゾジアゼピン、筋弛緩薬、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、ラモトリギン、リドカイン
ガバペンチンの用量・投与期間(本研究では制御せず)
基礎的な認知機能レベルや軽度認知障害既往
疼痛重症度や痛みの種類(定量的評価スコア等)
社会経済的背景(教育水準、収入など)
ライフスタイル要因(身体活動量、食事、BMI)
他の向精神薬・抗コリン薬などによるポリファーマシー
遺伝的素因や家族歴
後ろ向きデータベース研究ゆえのデザイン上の制約
ガバペンチン用量・投与期間を制御しておらず、用量依存性の評価ができない
因果関係ではなく相関関係の解析に留まる点
プロペンシティスコアマッチングによる交絡制御後も残留交絡の可能性がある
患者のフォローアップ喪失や診断漏れ、不整合なコーディングリスク
問い(PICO相当)
対象(P):慢性低腰痛患者
曝露(I):ガバペンチンを6回以上処方された群
比較(C):ガバペンチン未処方群
アウトカム(O):10年以内の認知症および軽度認知障害(MCI)発症リスク
臨床的意義
オピオイド代替として広く使われるガバペンチンの長期的認知影響を全国規模データで評価する点で重要
対象者の選択バイアス
TriNetXデータベースから後ろ向きに抽出。処方の有無は臨床判断に依存し、ランダム化されていないため選択バイアスの可能性あり。
ベースライン均質性
1:1プロペンシティスコアマッチングにより、年齢・性別・人種・主要併存疾患・他鎮痛薬処方歴などを調整し、主要な交絡因子は概ねコントロール 。
曝露測定の正確性
“6回以上処方”という定義は明瞭だが、実投与量や継続期間を考慮せず、潜在的な曝露量の誤分類が残存。
アウトカム測定の信頼性
ICD-10 コード(F01–F03, G30, G31.84)による診断記録から抽出。診断タイミングやコーディングの不正確さによる情報バイアスの可能性。
フォローアップの完全性
最大10年追跡と十分だが、電子カルテ登録から離脱した患者の追跡喪失や、軽症例で診断がつかないまま経過したケースがある。
残存交絡
プロペンシティスコアマッチング後も、基礎的認知機能、疼痛重症度、社会経済的因子、ライフスタイル、用量依存性など未調整の交絡要因が残る可能性 。
主要アウトカムのリスク比
認知症:RR 1.29(95% CI 1.18–1.40)
MCI:RR 1.85(95% CI 1.63–2.10)
用量依存性・年齢層別
非高齢者(18–64歳)でRRがより大きく、12回以上処方群でさらにリスク上昇傾向
統計的精度
いずれもp<0.001で有意、十分な症例数で精度良好
因果関係 vs. 相関関係
観察コホート設計のため、因果関係の証明には至らず
対象集団の一般化可能性
米国大型EHRデータからの抽出であり、他国・他種医療環境への一般化には注意
実臨床への示唆
慢性腰痛患者にガバペンチンを処方する際は、認知機能のベースライン評価と長期モニタリングが望ましい
因果関係の解明
無作為化試験や用量・期間を制御した前向き研究の必要
交絡要因のさらなる制御
認知機能ベースラインテスト、疼痛重症度スコア、社会経済情報を含む多変量解析
他鎮痛薬との直接比較
オピオイドや他の抗てんかん薬とのリスク比較研究
本研究は大規模リアルワールドデータを用い、ガバペンチン処方と認知リスク上昇との関連を示しましたが、観察デザインゆえ交絡や情報バイアスの影響を排除できず、因果的結論には限界があります。
臨床応用では認知機能評価と慎重な処方フォローが推奨されます。
Dr. bycomet