介護施設入居中の高齢者において、降圧薬の服用時間を朝から就寝前に変更しても、死亡または主要心血管イベントの発生率に差は認められませんでした。
【音声解説】
Bedtime vs Morning Antihypertensive Medications in Frail Older Adults: The BedMed-Frail Randomized Clinical Trial
カナダの介護施設(13施設、17病棟)に入居する高齢者776名(年齢中央値88歳、72.4%が女性、85.6%が認知症)
すべての1日1回服用の降圧薬を就寝前に投与
通常ケア(主に朝の投与)
主要アウトカムは、全死亡、脳卒中、急性冠症候群、心不全による入院または救急受診の複合エンドポイント
多施設共同、オープンラベル、実用的ランダム化比較試験(RCT)
観察期間の中央値:415日(IQR: 251–735)
主要アウトカム発生率:29.4(就寝前) vs 31.5(通常ケア)/100人年
調整ハザード比(aHR)0.88、95% CI: 0.71–1.11、P=0.28
全死亡率:28.7 vs 30.7 /100人年
aHR 0.89、95% CI: 0.71–1.11
心血管関連の入院(心不全、脳卒中、急性冠症候群)はいずれも有意差なし
全原因による入院または救急受診:22.6(就寝前) vs 30.0(通常ケア)/100人年
aHR 0.74, 95% CI: 0.57–0.96, P=0.02
ただし、感度分析(Poisson回帰)ではこの差は有意ではなかった(P=0.20)
この研究では、降圧薬を就寝前に服用することで、高齢者における全原因による入院や救急受診が減少するかを、副次的アウトカムの一つとして検討しました。初回解析では、就寝前に服薬していた群のほうが、そうでない群(通常朝の服薬)に比べて救急受診や入院が少なく、統計的に有意な差があるとされました(調整ハザード比 0.74、95%信頼区間 0.57–0.96、P = 0.02)。
しかし、著者らはこの結果の妥当性を検証するために感度分析(sensitivity analysis)を行いました。感度分析では、初回のイベントのみを対象とした元の解析に対し、すべてのイベント(繰り返し含む)をカウントする方法を用いました。これにより、より現実に即した医療利用の実態が反映されることになります。
その結果、統計的な有意差は消失しました。ポアソン回帰による再解析では、就寝前服薬群のイベント率は36.9件/100人年、通常ケア群は34.8件/100人年となり、相対リスク 0.87、P = 0.20と有意ではなくなりました。
この結果は、「就寝前の服薬で救急受診や入院が減る」とする最初の有意差が、解析方法を変えると再現されなかったことを意味します。著者らも、16個のアウトカムのうち1つで偶然に有意差が出る可能性があると述べており、この差が偶然による見かけの差(偽陽性)だった可能性が高いと考えられます。
したがって、この副次的なポジティブな結果については慎重な解釈が求められ、「就寝前の降圧薬が救急受診を減らす」という結論は現時点では支持されません。
転倒・骨折・褥瘡・認知機能の悪化・問題行動:両群で差なし
Garrison SR, Youngson ERE, Perry DA, et al. Bedtime vs Morning Antihypertensive Medications in Frail Older Adults: The BedMed-Frail Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(5):e2513812. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.13812
血圧(BP)は日内変動があり、夜間のBPが心血管リスクの予測に優れる。
就寝前に降圧薬を投与すると、夜間BPをより効果的に下げる可能性がある。
過去の研究(Hermidaら)は、就寝前の投与で心血管イベントが大きく減少すると報告した。
一方で他のRCT(Mackenzieら)や観察研究では、投与時間の違いによる有意差は報告されていない。
高齢で虚弱な人々(特に認知症患者など)はRCTに含まれにくく、投与時間の影響が異なる可能性がある。
就寝前の投与は低血圧関連の合併症(転倒、褥瘡、認知機能悪化)を招くリスクもある。
このようなリスク・ベネフィットの不均衡を評価するため、高齢虚弱者を対象にRCTを実施。
就寝前投与は、死亡・心血管イベントの発生率を低下させなかった。
転倒、褥瘡、認知・行動症状にも悪影響は認められなかった。
本研究の結果は、Mackenzieらおよびスペインの観察研究と一致。
先行研究(Hermidaら)が報告した大きな効果と異なる理由として:
高齢・虚弱者ではBP関連介入の影響が小さい可能性
死亡の主因がBP以外(感染、フレイルなど)である可能性
一部で就寝前投与により救急・入院率が低下したが、これは偶然の可能性も否定できず、事後分析では有意性を失った。
高齢者介護施設に特化しているため、一般高齢者への外的妥当性に限界。
RAI-MDSによるアウトカム評価は1回(135日後)であり、長期的変化は捉えられていない。
RAI-MDS(Resident Assessment Instrument – Minimum Data Set) とは、主に介護施設や長期療養施設に入所している高齢者の健康状態やケアニーズを包括的に評価・記録する標準化ツールです。
一部で薬剤タイミングの非遵守(特に利尿薬)も存在したが、感度分析では結果の一貫性が示された。
Dr. bycomet