認知症の行動・心理症状(BPSD)に対して、ブレクスピプラゾール(brexpiprazole)は有効性が最も高く、アリピプラゾール(aripiprazole)は受容性が最も高く、オランザピン(olanzapine)は忍容性が最も低くなっていました。
【音声解説】
認知症(アルツハイマー型、血管性、混合型)患者6,374名、平均年齢約80歳、女性67%、主に介護施設居住者
第二世代抗精神病薬(SGAs)の使用(ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、リスペリドン)
プラセボまたは他のSGAsとの直接比較
有効性(標準化スケールのスコア改善、例:CMAI, NPI)
受容性(全脱落率)
忍容性(副作用による中止率)
有害事象(死亡、脳血管イベント、転倒、鎮静、錐体外路症状、尿路症状)
ネットワークメタアナリシスを用いたシステマティックレビュー(ランダム化比較試験20件)
ブレクスピプラゾールはプラセボよりも有効(SMD = −1.77, 95% CI −2.80 to −0.74)、他のSGAsよりも有効性が高い
アリピプラゾールはプラセボより受容性が高く(OR = 0.72, 95% CI 0.54 to 0.96)、ブレクスピプラゾールよりも優れていた(OR = 0.61, 95% CI 0.37 to 0.99)
オランザピンは忍容性が最も低く、プラセボ(OR = 6.02)、リスペリドン(OR = 3.67)、クエチアピン(OR = 3.71)よりも有害事象による中止率が高かった
転倒リスクの点ではブレクスピプラゾールが最も安全、脳血管イベントに関してはクエチアピンが最も安全、鎮静に関してはブレクスピプラゾールが比較的安全
錐体外路症状(EPS)のリスクはリスペリドンとオランザピンで有意に高かったが、クエチアピンは最も安全だった
Lü W, Liu F, Zhang Y, et al. Efficacy, acceptability and tolerability of second-generation antipsychotics for behavioural and psychological symptoms of dementia: a systematic review and network meta-analysis. BMJ Ment Health. 2024;27:1–8. doi:10.1136/bmjment-2024-301019
世界的に高齢化が進んでおり、2050年には認知症患者数が1億5000万人に達すると予測されている。
認知症の行動・心理症状(BPSD)は非常に一般的で、幻覚・興奮・無気力などが含まれる。
BPSDは患者の生活の質を下げ、家族の介護負担を増加させ、施設入所や死亡リスクの増加にもつながる。
第二世代抗精神病薬(SGAs)はBPSDに対して用いられることがあるが、副作用リスク(鎮静、錐体外路症状、脳血管イベント、死亡率増加)が懸念されている。
米国FDAはSGAsの使用に関してブラックボックス警告を出しており、慎重な使用が求められている。
従来のメタアナリシスでは有効性や安全性は示されていたが、「受容性(治療継続のしやすさ)」の観点が欠けていた。
本研究は、BPSDに対するSGAsの有効性・受容性・忍容性をネットワークメタアナリシスで比較評価することを目的とした。
用量が統一されておらず、用量の影響を分析できなかった。
主にアルツハイマー型認知症を対象としており、他の認知症タイプへの外的妥当性が限定的。
多くの研究が介護施設内で実施されており、外来や家庭での応用には注意が必要。
長期試験では副作用のリスクが増加するが、長期データは不足。
一部のアウトカムは信頼度が低い(CINeMAで“very low”評価)。
ブレクスピプラゾールはBPSDに対する有効性が最も高い。
アリピプラゾールは受容性が高く、全体的に最もバランスが良い薬剤と評価された。
オランザピンは副作用が多く、特に脳血管イベントや鎮静作用に注意が必要。
各薬剤は異なる副作用プロファイルを持ち、万能な薬剤は存在しない。
リアルワールドでのデータも必要であり、RCTだけでは拾いきれない副作用もある。
将来的にはSGAs以外の薬剤(例:ピマバンセリンなど)も含めた検討が求められる。
『Users’ Guides to the Medical Literature: How to Read a Systematic Review and Meta-analysis and Apply the Results to Patient Care』に基づく批判的吟味(Critical Appraisal)は、以下の3つの柱に分けて行います:
Yes. 「BPSD(認知症の行動・心理症状)に対する第二世代抗精神病薬(SGAs)の有効性・受容性・忍容性を比較する」ことを目的としており、明確に定義されている。
Yes. PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryの4つの主要データベースを用い、2023年12月までに公開された英語論文を対象としている。
補足資料では検索戦略も公開されている(PRISMAに準拠)。
Yes. 2名の独立評価者によって選定・抽出・バイアス評価が行われており、ROB2によるリスク評価も実施されている。
Yes. CochraneのROB2ツールにより評価され、結果はオンライン補足資料で報告。
約45%の研究が「低リスク」とされ、残りは「ある程度のリスク」または「不明瞭」。
CINeMAでも比較ごとの証拠の信頼性が評価されており、一部は“very low”とされている。
Yes. ランダム効果モデルを使用し、標準化平均差(SMD)やオッズ比(OR)で報告。
ネットワークメタアナリシスにより直接比較と間接比較の両方を活用。
一部のアウトカム(忍容性)で不一致(inconsistency)あり(p = 0.035)が、それ以外は統計的に整合している。
ブレクスピプラゾール vs プラセボで SMD = −1.77 (95% CI −2.80 to −0.74) → 非常に大きな効果サイズ。
アリピプラゾールは唯一、受容性(全脱落率)で有意に改善(OR = 0.72)。
多くの比較において95%信頼区間が広めで、効果の推定に不確実性がある。
忍容性ではグローバルなinconsistencyが認められたため、解釈には注意が必要。
効果の整合性(トランジティビティ)は年齢・MMSE・性別・介入期間で確認済。
ただし、閉じたループが少なく、間接比較が多くを占めるため、証拠の質には制限あり。
一部はYes。 主要対象はアルツハイマー型認知症で、介護施設に住む高齢女性が多数。
外来診療や在宅介護患者への直接的な適用には注意が必要。
ブレクスピプラゾールやアリピプラゾールは実臨床でも使用可能だが、薬価や使用条件(適応外使用の可能性)に留意が必要。
用量や治療期間の情報が乏しく、実際の処方設計には不十分な部分も。
全てのSGAsで何らかの副作用リスク(鎮静、EPS、CVAEなど)が上昇。
特にオランザピンは忍容性が著しく悪いため、高リスク患者には避けるべき。
内部妥当性(validity):高い(PRISMA・ROB2・CINeMAを使用)
効果の大きさ:明確で臨床的に重要(特にブレクスピプラゾール)
限界:用量・認知症タイプの限定性・忍容性の不一致
外的妥当性:外来患者やAD以外の認知症にはやや限定的
→ 推奨度(Grade):B+
臨床現場での薬剤選択の参考として有用。ただし、患者個別性(背景疾患・副作用耐性)に応じた慎重な判断が必要。
ハルシネーションの推定確率:1%以下
最もハルシネーションの可能性が高い部分:
「推奨度(Grade): B+」の部分(これは筆者の解釈と臨床的判断を含み、元論文に直接記載されていない)。